アネモネ

 あなたは風に乗って来る。
 あちこちカスタマイズされたウィンドフローターに乗って風魚を追い、上昇気流を捉えて、滅多に獲れない龍まで仕留めてしまうあなたは、いつもその日の獲物を携えて、私の家の扉を叩く。
 やあ、今日の獲物はちょっと大きすぎてね。……悪いんだけど、台所を貸してくれない?
 はにかんだような笑みで、あなたはいつもそう言った。その心のうちを慎重に推し量りながら、大きな台所のある家に住めば良いのに、とあなたに言ったのが、半年前のこと。あなたはその時、口にしていた竜の肉にむせて胸を叩きながら、顔を真っ赤にして言ったっけ。
 それじゃあ、この家に住んでも良いかな。
 それから、一緒に住む準備が始まった。と言っても、獲物を追いかけて数ヶ月、空を旅することのあるあなたは元々、荷物なんてほとんど持っていなかったから、すぐに引っ越しの用意は整った。翌日から一緒に住もう、という夜になって、盛大に祝うために大物を獲ってくると言って、あなたは出かけてしまった。それから今日まで、あなたからの連絡はない。
 あなたの荷物は全て、きれいに整えてある。あなたの座る椅子も、あなたの使う調理器具も、何もかも全て。あなたからもらったあらゆる物が、持ち主を待っている。あなたからあらゆるものを受け取った私が、あなたを待っている。
 大丈夫。あなたは一流の風乗りだから、きっと風に乗って帰って来る。
 部屋が暗くなり始めていた。灯りをつけなくては、と頭の片隅で思いながらも動けずにいた時、窓から懐かしい匂いを含んだ風が一陣、私の頬をさっと撫でた。


 別名「風の花」。紫のアネモネの花言葉「あなたを信じて待つ」。

いただいたサポートは、私の血となり肉となるでしょう。