タイサンボク(誕生花ss)

 父が用意してくれた船で、海を隔てた異国へ留学出来ることになった。つい最近、鎖国を解いた我が国には伝わりきっていない異国の文化を、この身体で体験する、絶好の機会だ。
 出航の日は快晴で、数人の船員とともに、九人の花娘が私を待っていた。九人とも花娘らしく色白で慎ましく美人で、そしてひと言も発しなかった。私たちは船に乗り込み、異国目指して航海を始めた。
 何事もなく一日目が終わり、太陽が沈んだ。私はひとりの花娘を選び、同乗した調理人とともに、それを調理した。花の芳しい香りが船中に満ち、私と船員たちは花娘の炒め物で腹を満たした。そのまま食べてもほろ甘く美味な花娘の炒め物は、塩気を含んで軽快な味に仕上がっていた。他の花娘たちは当然ながら何も食べず、ただ船室の隅に微笑みながら立っている。
 二日目の夜は、花娘の刺身にした。醤油に浸して、その肉のような花びらを口に運ぶ。まるで薄い飴細工のように一瞬で溶けるそれはやはり美味で、飽きがこない。
 三日目には、花娘の揚げ物にした。カラッと揚がった花娘の花びらは軽い食感と口当たりで、腹にもたれることもない。
 四日目と五日目には花娘のサラダとスープを作り、六日目には米と一緒に炊き込んだ。七日目には麺に練り込み、八日目にはミキサーにかけてジュースにした。
 九日目、ひとり残っている筈の花娘が見当たらなかった。程なくして、暗くなり始めた水面に、白く美しい花びらが幾枚も漂っているのを発見した。
 まあ、どうせ明日の朝には目的の港へたどり着くのだ。連日ご馳走続きだったことだし、今晩は胃を休めることにしよう。
 私と船員たちは、その晩もぐっすりと眠った。


 花言葉「前途洋洋」。また、花自体を食べられることからも着想しました。

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