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デンファレ(誕生花ss)

 私の母は仕事が大好きで、朝早くに出勤して夜遅くに帰宅し、娘の私や父の前に姿を現すことが珍しい程だ。父は在宅勤務が多いので、自然、我が家の家事は父が殆どこなすようになった。
 昔から男社会と言われてきたような職場で気合を入れて働く母と、いつものんびりとベランダの野菜を愛でている父とは対照的で、家族以外の人からは、気が合わないのではと思われがちだ。でも。
「きゃーーーーっ」
 窓際から母の悲鳴が聞こえる。休日には毎回のことなので、私は居間に顔だけ出して様子を見る。母の悲鳴が上がってからコンマ数秒ほどで父が駆けつけ、母の手にある野菜の上から、青虫を助け出す。慣れた手つきでベランダ菜園に青虫を戻し、父は涙ぐむ母の背中を優しく叩いて落ち着かせる。
 やっと落ち着いた母は、父が丹精込めて作った野菜で、サラダを作る。料理はからきしの母が、唯一作れるメニューだ。そこに私がブレンドしたお手製のドレッシングを加え、父が用意したサンドイッチを添えたら、私たちの休日が始まる。
 お似合いの夫婦に、お似合いの娘。私たちはお似合いの家族だ。


 花言葉「お似合いの2人」

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