エッセイ 私と家族と食卓と〜『ゴマ』

ここのところ作る料理にゴマを使っているものが多いなあと、気をつけているがまたゴマを使ってしまう。
「ゴマ好きですか?」と聞かれれば「はい」と答えるが、好きな食べ物で「ゴマ」を選ぶほどではない。
でも栄養価も高いし、風味もよくなるから使うといいと思う。まあ、おいしいし、食べたほうがいい和食の合言葉「まごわやさしい」の「ご」はゴマやし。

ゴマというと、今はもう会えない、想う人がいる。
私よりも10歳以上年上で、息子の妊娠中も産後も助けてくれた人だ。
出産の2日ほど前にも一緒にいた。予定日まで2週間以上あったから、まだまだ余裕と、ちょっと贅沢にホテルで中華のコースを食べていた。
中華がよかったのか、彼女の明るい声がよかったのか息子は外に早く出たがった。

妊娠中は結構順調だった方だ。
きついつわりもなかったが、それでも今まで好きだったものが突然見るのも嗅ぐのも嫌になり、これまで意識したことのないものを夢中になって食べたり、自分ではコントロールできない欲望に支配される時期があった。

私も例にもれずご飯が炊ける香りや、豚肉を炒める臭いがダメだった。これがある時期を越えると全然気にならなくなるから不思議だ。
反対に食べたくなったものは、きゅうり。
朝一で冷蔵庫からきゅうりを取り出して洗って切りもせず、そのままキッチンでかじって1本食べる。
きゅうりは体を冷やすから食べ過ぎはよくないと聞いたことがあるが、我慢できない。行儀もへったくれもない。立ってむさぼり食うのだ!きゅうりを!ワイルド過ぎるやん、私。

よく言われるグレープフルーツとかの柑橘類を欲した人は周りではあまりいなくて、マクドナルドのポテトが止められなかったり、マンナンライフの蒟蒻ゼリーの中毒になって食べ終わったあとの容器を積み上げまくったわ、いうのは結構聞く。

そう、それでその彼女はつわりの時期に「ゴマばっかり食べていた」という。
ゴマとはなんともめずらしい。これまでほかの人で聞いたことがない。
それも発作が起きたように「ゴマ〜!ゴマ〜〜〜!!」と欲して、手の平にのせ、口に流し込んで食べていたというから、思い浮かべるとちょっとホラーで笑えてくる。
何かにちょこっとかけて食べるとか、スプーンですくうとか、そんな発想は妊婦にはないものだ。
いいとか悪いとか、そんなのに構えないくらいに、抑えられずに夢中になってしまう。
そして、食べすぎては後悔する。

彼女はほかにも上のお姉ちゃんを妊娠中は洋食ばかりで、下の妹のときはタラコばっかり食べていたらしく、そしたら上の子は洋食好き、下の子は和食好きになったんだと。
私はきゅうりは途中で飽きたけど、妊娠中から産後までドンクのミニクロワッサンをめちゃめちゃ食べていた。プレーン→チョコ→プレーン→チョコ・・・と繰り返し、袋に手を突っ込んでいたら、ものすごく太った。
そして今、やっぱり息子はクロワッサン好きだ。

でも、彼女の娘たちも特にゴマ好きでもないし、うちの息子も特にきゅうり好きでもない(笑)そこは意外と引き継がんのんかい!

なにかあれば相談したいな、と今も思う。
一緒に飲みに行きたいな、と今も思う。
さみしいけど、「えりちゃん、スマ〜イル!!」といつも励ましてくれたことと一緒に、このゴマの話も思い出すから、意識しなくても笑ってしまうよ。
今日もゴマをふりながらあなたを想う。
なんか変やね 笑

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