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読書録『嚙み合わない会話と、ある過去について』|辻村深月氏

ゾッとした。
学生時代のことを覚えていますか?
どんな子だったでしょうか。私はとにかく性格の悪い子でした。
嘘つきだったし。目立ちたがり屋だったし。決して自虐的なわけではなく。
そんな子は、過去に呪われると思うくらいの物語。

人物同士の嚙み合わない会話。
違う立場の主張。
過去の記憶について対話だから厄介なことになる。
記憶は都合のいいように捏造され、感情を増幅させる。

『嚙み合わない会話と、ある過去について』
「ナベちゃんのヨメ」
「パッとしない子」
「ママ・母」
「早穂とゆかり」
この四篇からなる短編小説。

生理的にムリという言葉があるけれど、誰かを過度に嫌ったり、過度に突っかかったり批判したり・・
大人になってかなり慣れてきたけれど、今もあるよね。みんなやり過ごすことはできているのでしょうか?
本質的には何も変わらないのね。
過去だけの話ではなくて、今は未来には過去になってしまうのだから、総じて今を見つめ直す小説だと思いました。

さらに読後、「される側」と「する側」どちらか一方だった!と言い切れず、どっちの立場もあったなぁと感じたことは面白かった。
何個も何個も「された」過去が思い出されるし、あの時のあいつ同じ目になっていればいいなぁとか思って、読んでて清々するんですよ。同時に、「する側」だった過去も思い出される。あんなことをしてしまったから、今こうなのかって納得して、よっぽど徳を積まないと当時のあの人のところへは戻っていかないなぁって思ったり。そんな軽いものではなく、あれは許されないことだったなぁ。忘れてはいけないものだなぁって記憶もあって。バランスが取れていると思う。こうやって自分を見つめ直し、考えさせられてしまうところにもホラー的要素があると思います。

「早穂とゆかり」では、「された側」ゆかりの、行動の裏にある心情が細かく書かれています。教育関係の仕事についたゆかりが当時、周りとうまくやれなかった自分自身を客観的で中立的に分析している。その仕組みがわかることで、救われる気がします。
小学生、中学生、高校生、20代前半くらいの子におすすめしたい小説です。

ディスカッションすると面白い小説です。最後の復讐はやりすぎだ。大人げない。とか、当然のことだ。とか、そんな風に意見が割れるかもしれません。復讐するということは、またどこかで復讐されるというリスクも孕んでいますから、今が過去になって未来に、何かされるかもしれません。戦争が起こる仕組みにも該当することなので、やめようよとは、頭では考えられることですけれど。やっと1対1の対等な戦いになるのかもしれませんね。なんて言ったって、いじめは、強いものもしくは大人数対1ですから。
聖人なんているのでしょうか。
夜道には、気をつけた方がいいですよ。




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