ファミリーレストランの裏側:開発現場での出会いと学び
人とのかかわり
ファミリーレストランの現場で仕事をする中で、多くの場合、料理長や板長さんは非常に厳しい方が多く、なかなか打ち解けられないこともありました。確かに、いろいろな企業との関わりの中で、時にはいじめのような状況も経験しました。しかし、このファミリーレストランに関しては、本当に温かい方が多く、今でも連絡をし、同窓会のようにお会いすることもあります。
板長との思い出
特に印象深かったのは、ある板長さんとのエピソードです。板長さんにとって包丁は命であり、マイ包丁を持参して開発に臨んでおられました。ある日、私は机に置かれた包丁を見つけ、「包丁、使いたい」と言って勝手に使ってしまったことがあります。その場の周囲の人々が真っ青になったのを今でも覚えています。それにもかかわらず、板長さんは私に料理のコツを教えてくださり、非常に温かい方でした。それまでは自宅で簡易な包丁研ぎしかしていなかった私に、包丁の研ぎ方まで教えていただきました。
プロの舌の驚異
開発の方々は、当然のことながら、プロの集団であるのですが、しばしば驚くこともありました。
例えば、「以前より甘めにする」という依頼があった際、いくつかのたれを試作しました。試作の過程で、各たれの糖度を細かく計測し、糖度に違いをつけた複数のサンプルを用意しました。すると、開発チームは「これは以前より○○度、糖度が違う」と一度の違いをも正確に見抜きました。その精度には驚かされました。たった一度の違いでも味に影響を与えるため、その上でさらに微調整を加え、最適な甘さを追求する必要がありました。
たれの開発プロセス
また、たれの開発の話ですが、ランチメニューの開発と同時に、たれの依頼がありました。このファミリーレストランでは、味噌カツが非常に人気で、特に関西エリアでも売れ筋メニューでした。関西は味噌文化があまり浸透していないにもかかわらず、どのエリアでも支持されるような味付けが工夫されていました。しかし、社長の妹さんが名古屋に嫁がれたこともあり、名古屋の味を忠実に再現したいという依頼がありました。
名古屋の味の再現、しかし・・・
そこで、開発チームが名古屋の有名店を訪れ、いくつかの店を回り、スポイトでとったたれを私に送っていただき、それを再現しました。八丁味噌の多様な味を考慮しつつ、原価を考えた最良の選択をし、社長のプレゼンでもOKが出ました。実際にたれを名古屋風に変更しましたが、結果として売れませんでした。アンケート結果によると「これまでの味はここでしか食べられないのに、変えるなんて」との意見が多く、最終的には元のたれに戻すこととなったのです。
他にも、沖縄の鶏飯の再現を目指して現地調査を行ったり、裏まで行って缶の内容物をメモされたものを開発したことがあります。他社の例ですが、ロイヤルホストでは毎年カレーフェアのために各国のカレーを調査し、開発を行っているという話も有名です。
このように、一つのたれを作るにも、開発チームが総出で現地調査を行い、相当の時間と労力をかけて作り上げていることが改めて分かります。