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Essay|居心地の良さに埋もれてしまおう

憧れのホテルがある。

そのホテルにいつか行きたいと夢見るだけで、心は素晴らしく豊かになる。簡単に日本から脱出しにくい時代になった。2020年に起きたパンデミックはそう易々とわたしたちを自由に飛び回らせてくれなくて、あぁ旅がしたい、あぁ飛行機に乗りたい、あぁ空港に行きたいと旅への想いは加速するばかりだ。(なんで空港ってあんなにワクワクするのだろう)

たとえオンラインで代替するサービスが出てきたとしても、現地に行って、見て、触れて、匂いを吸って、土地のものを味わい、その場所で鳴ってる音を聴く以上のことが見つからない。五感を満たす至福はそう簡単に譲れないのだ。

映画『カーライル ニューヨークに恋したホテル』を観た。NYの一等地であるマディソン・アベニューにあるこの5つ星ホテルは、1930年から多くのセレブリティに愛されてきた。映画はカーライルで働くドアアテンダント、コンシェルジュ、ハウスキーピング、ウェイター、バーテンダー、ルームサービス、フロントなど様々なスタッフたちから聴く裏話と(秘密を守るホテルだからみんな口を揃えて「言えない」と言うのだけれど)これまで宿泊してきた錚々たるセレブたちの思い出写真で構成されるドキュメンタリーで、とにかくもう旅がしたいに拍車をかけてくる。

映画『プリティウーマン』のビビアンみたいに何かの手違いでうっかりスイートルームに泊まれないかな?と現実味のない夢を見ては、高級で手の届かない世界最高峰の魅力に妄想は口をあけて見惚れるばかりだ。

去年あるホテルに泊まったときにとても残念な経験をした。そこはわたしにとっては泊まることが楽しみな憧れのホテルで立地も外観も部屋のセンスも、私の欲求を満たしてくれる素晴らしいものだったけれど、そこで働く人の対応はそのホテルのいわゆる見た目に満たないものだった。お客さんが待っている側でスタッフ同士がずっと話し込んでいたり、予約時間に部屋の準備ができていなかったあとの連携がうまくとれておらず、結果3時間ほど待たされてしまったり。なんだかな、と思うことは続くもので少し寂しい気持ちになった。

少し背伸びをして泊まるホテルには、ただ寝起きするだけではない、その箱に泊まるだけではない、それ以上の居心地を求めてしまうものだ。もしかするとそれはホテルに限ったことでもなく、どんな場所にも求められることなのかもしれない。居心地をつくる正体はなんなのか。

そのヒントがカーライルで働く人の眼差しの中にあるような気がして、いつかいつかと夢見ている。

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