Essay|答えは風の中にある
嘘はついてない。本当のことを言ってなかっただけ。
言葉にできない気持ちがあって、小説や映画にはそういう曖昧だけど見過ごしちゃいけないものがある。伊坂幸太郎さん原作、手からこぼれ落ちそうな悲しくて優しい物語の『アヒルと鴨のコインロッカー』を中村義洋監督の手で映画化された。
メインキャストはまだ10代や20代前半で、そんな危うさも役柄とぴったりはまって見所のひとつ。
言葉で表現できないことを映画に閉じ込めているのだから、それ以上必要ないかもしれないけれど、この映画のことを書かずにはいられない。
『アヒルと鴨とコインロッカー』
(監督:中村義洋、主演:濱田岳/2006年)
ブータンからきた遣い
仙台の大学に進学した椎名は、借りたアパートの隣に住む河崎に突拍子もない提案を持ちかけられる。「一緒に本屋を襲わないか?」
この物語は「あひる」と「鴨」の違いみたいに、小さな人種差別と、正義と復讐が行ったり来たりする。
アヒルと鴨は何が違うのか。正義のための暴力と悪事は何が違うのか。日本人とブータン人は何が違うのか。
もやもやした気持ちが頭の中を占領してつかんだと思った答えは、手のひらをするっと逃げて悔しさだけが残る。
僕は君に優しくできているだろうか。
仙台で出会った愛する人と憧れの人
主人公の椎名はとにかくいいやつで押しに弱い。仙台に来てはじめてできた友だちの河崎の言動や奇妙な出来事を、嘘が下手で人を疑わない彼の視点で追いかけていく。モノトーンで描かれる回想シーンと、椎名の疑問が交差しながら物語は進んでいく。
本当のことがわかったとき、全部がつながって涙がとまらなくなる。椎名と同じ気持ちを、観客は受け取るのだ。
少しの正義と愛と復讐の先にあるもの
社会にはびこる悪事に怒りのぶつける先がない。正義がそれに立ち向かうとき、ときどき勝利の女神はほほえんでくれない。
ただただ悲しくてやりきれない気持ち。どうしてこんな風になってしまったの。大切なときに流れるのはボブ・ディランの『Blowin' in the Wind』。
椎名は父親の病気で実家に帰ることになったけど、その前に一つだけやることがある。
ラジカセをもって出かけよう。椎名が隣に越してきたことが、ぼくにとっての希望。
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