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映画みたいなそれ

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1本の映画をピックアップして書く映画エッセイ
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#映画感想文

Essay|夏が終わる前に

夏は、出会ってしまうものだ。 2022年の夏、私の中で大きな出来事の一つはサマソニでRina Sawayama(リナ・サワヤマ)のパフォーマンスを見たことだ。彼女の存在は、音楽好きな友達から聞いて知っていた。ただ、私の体内に流れ込んできたのは、確実にサマソニのMarin Stageで彼女の歌声を聴いた時だ。 赤い衣装に身を包み、登場からオーラが半端じゃなかった。音が鳴った瞬間、彼女から目が離せなかった。圧倒的なエンパワーメント。彼女の音楽の真ん中にはそれがあった。「今度発

Essay|ふつうって何?

いろんな当たり前が揺り動かされる毎日だ。 小さい頃はよく「普通にしなさい」「普通がいちばんだから」と言われて、普通って何かわからなくて顔はわかりやすく無になっていたし、みんな普通でみんな普通じゃないよなと禅問答のように頭の中はぐるぐるしていた。結果的に大人になった今、私はとても普通で、まるで普通じゃない人なのだと思う。 昭和から平成、令和になり、時代が変われば、普通なんてものは変わっていく。これまでよかったことがダメになったり、ダメだったことが解放されたり。社会はいつも不

Essay|この先に見る未来に

少し先の未来を見ることは、今の私たちをうんと勇気付けると思う。 幼い頃、こんなことがあった。母のいたずらか思惑か今となってはわからないが、私は5歳か6歳の(それすらうろ覚えだけど)お誕生日プレゼントに「ついておいで」と当時住んでいたマンションから少し歩いた先の、ある一軒家に連れて行かれた。 連れて行かれた先は、小さな個人でやっているピアノ教室。物がもらえると思い込んでいた私にとって、見知らぬ場所に連れられ「これがプレゼントだよ」の意味がまったく理解できなかった。 わからな

Essay|「ひな祭り展のチケットがあるよ」

誰もが覚悟する修羅場みたいな場面だった。 まだ2021年2月が終わったばかりだけれど、今年ナンバーワンの邦画なんじゃないかと思うほど『あのこは貴族』は、これまで描かれてきた女性たちの全ての描写をアップデートした。 主人公の華子と、その婚約者と付かず離れずの美紀が青木幸一郎をきっかけに出会うシーンだ。華子の実家は開業医をする東京・松濤に住むお嬢様で、婚約者の女友だちである初対面の美紀に封筒を差し出すという、時を戻したくなるような時間。これから何が起きるのかと、2人のやりとり