立野正裕 洞窟の反響ー『インドへの道』からの長い旅
立野先生の著書再読シリーズの第4段。自力でひとつの小説をこんなふうに読めたら、どんなに豊かなことだろうと思う。でもその豊さは当人の中では苦闘であり精神をすり減らすものなんだろうな。
『インドへの道』を読んだことがない人でも、フォースターの現代性を解き明かしていく著者の深い洞察に感銘を受けることと思います。
以下、Amazonレビューに投稿したのと同じものを再掲。
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著者の若い時代に主要な研究対象となったイギリスの現代作家、E.M.フォースターに関する論文やエッセイをまとめた一冊。中でも大英帝国植民地下のインドを舞台に書かれた「インドへの道」を論じたものがこの本の骨子をなしている。
フォースターの「現代性」は(グレン・O・アレンをのぞき)あらゆる批評家に誤解され正しく評価されてこなかったが、これは著者の「読み」によって確立されたと言ってよい。
古代ギリシアは人類が自然に隷属する世界だった。キリストの出現によって人類の精神は解放されたかのように見えた。だが人々は自然への恐怖を克服しえず、やがてヒューマニズム(=ルネッサンス)の時代に突入するが、もはや失われてしまったものを理解できなくなっている。そのひとつが「インドへの道」におけるマラバール洞窟なのだ。
自らの価値基準を疑うことをせずに、歴史も文化も違っている相手の国を支配下に置く帝国主義の論理が挫折する理由は今の時点から見れば明確であるものの、当時渦中にあったフォースターが文学に昇華させたことから学ぶべきだと感じた。また、ヒンドゥーイズムへの興味が深まった。
ホモセクシュアルなどマイノリティへの嫌悪の念についてもしかり、国と個人の問題や民主主義についても、私たちは歴史を学ぶことなく、知らず知らずのうちにインストールされた「今、この時」の社会的価値観に基づいて物事を判断しがちである。
わたしはこの視野狭窄に陥りたくはないのだ。
古代〜現代のヨーロッパ史を概観し、大英帝国の植民地(インド)への見方・関わり方を知ることができ、フォースターの小説が手元にない場合でも作品のエッセンスを取り入れ学ぶことができるという点など、様々な価値をもたらしてくれる一冊である。
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