本能的(visceral)デザイン - エモーショナルデザインを考える

この間Don Normanらによって提唱された「感情デザインの3つのレベル」について簡単に触れたけれど、今日はそれを一つづつ掘りさげてみようと思う。

まず一番コアの深い部分にあるもの、私たち人間の本能に関わる部分だ。

ちなみに、Don Normanが英語で書いたものは「visceral level」である。日本語にすると「本能」が近いのかな、と思うけれど、彼が「Instinct」という単語を使わず「Visceral」としたのには何か理由があるはずだろうと思う。

visceral(本能)とは

visceral | ˈvis(ə)rəl |
adjective
relating to the viscera: the visceral nervous system.
• relating to deep inward feelings rather than to the intellect: the voters' visceral fear of change.

直訳すると「内臓」に関わるもの、である。知性ではなく人間の奥深くにあるフィーリングに関わるもの、でもある。日本語でも「腹」という言葉で、知性とは別のレベルで本能で感じるものを言うことがあるのに近いだろうと思う。

本能的(visceral)デザインとは

私たち人間の「はら」の深いところにある本能に訴えてくるデザイン、である。

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、などに訴えかける、はっきりとした品質を作り込むことだ。本能的レベルの認知は無意識のうちに処理され、私たちは一瞬でそのプロダクトに対しての判断をする。そのプロダクトの見た目が好きか、危険はないか、といったことだ。

こういった本能的認知は、深い思考なしに瞬時に表面的に処理される。

ノーベル経済学賞受賞者のDaniel Kahnemanの「Thinking, Fast and Slow(邦訳「ファスト&スロー」)」のなかでシステム1とシステム2というコンセプトが出てくるのだが、システム1はこの本能に近い(同じではないと私は思う。システム1は経験値によって変動する「直感」も含まれる)。同書の中でシステム1を説明するのに「Her favorite sports is jumping to conclusion(彼女の好きなスポーツは、結論に飛びつくことだ)」という表現がある。

これは本能的レベルでデザインを処理した時に瞬時に出す判断がこれである。

Look and feel

何かをデザインする時に「Look and feel」を作り込む、ということがある。色や形といった、見た目や、音、手ざわりのデザインのことだ。ディテイルをつくり混むことはもちろん大切だが、私たちがこの「Look and feel」を認知する時には、そのプロダクトのそれ全体を受け止めている。細かく見れば、ボタンの角丸がどう言う印象を与えているか、と言うことを語ることはできるが、一般的にユーザは、角丸のボタンから背景色、写真、動き、などを総合して一つの経験として受け止めている。

「美学」と感情

ビジュアルデザインのフォーカスは「美学」にある。前回も少し触れたが、「美学」と「美しさ」を混同してはいけない。デザイナーの態度として多くの場合「美しさ」のみを追求することは必要なかったり、場合によっては不適切ですらある。

「美学」とは、ターゲットユーザおよびそのユーザがどのようにその製品を使うかに対する深い理解を元に、ユーザにとって魅力的な製品を作ろうとする態度である。

「美しさ」は瞬時ににユーザの注意を引くためにはとても重要である。しかし、そのデザインによってユーザの「感情」を引き出そうとするには「美学」を忘れてはいけない。

本能的デザインの重要性

世の中には同じ機能を持った製品が溢れている。その中でユーザに選ばれるためには、本能に訴えるデザインはとても重要である。

本能的デザインは「全体として」捉えられると言う特質から、チームワークが欠かせない場合が多い。プロダクトデザイナーだけではなく、グラフィックデザイナー、UIデザイナー、広告デザイナー、ロゴデザイナー、など様々なデザイナーが一緒になって、ターゲットユーザの本能に訴えることができる。

まずは、本能に訴えてユーザの注意を引くことなくしては、どんなに素晴らしい製品もマーケットで成功することは難しい。

参考
Ortony, A., Norman, D. A., & Revelle, W., "The Role of Affect and Proto-affect in Effective Functioning" 2004

Emotional Design — How to Make Products People Will Love
https://www.interaction-design.org/courses/emotional-design-how-to-make-products-people-will-love/lessons/3.3

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