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Day2 しまなみ海道サイクリング

やりたかったこと


 今回の旅のもうひとつの(そしてもともとはメインだった)柱が、しまなみ海道縦断サイクリング!!しまなみのサイクリングロードは全長70kmもあり、歴史と文化にあふれる島々を結びながら本州と四国に架かる自転車道です。サイクリストの聖地でもあり、日本初の"海峡を横断できる自転車道"みたいです。
 歴史と文化の具体例で言うと、数年前に本屋大賞を受賞した『村上海賊の娘』をご存じでしょうか?日本史や読書が好きな方ならご存じの方も多いと思います。「海賊」と聞くと、昔のカリブ海を舞台にした『パイレーツ・オブ・カリビアン』をイメージされる方も多いですよね。しかし実は、日本にもかつて海賊が存在していたのです。海賊村上海賊は、日本最大の海賊とも呼ばれ、戦国最強の水軍とも讃えられた海賊団。織田信長すらタジタジ。そんな”海の大名”の村上海賊の本拠地も、このしまなみ海道で訪れることができます。
 とはいえ、此岸くんが今回「しまなみ海道に行きたい…!!」と思ったのは、何より瀬戸内海の自然です。青い海、豊かな緑、橋の曲線美。Googleで何気なく画像検索した瞬間から心を鷲掴みにされていました。気づけばヒッチハイクという強コンテンツにすっかりスポットライトを奪われてしまっていましたが、しまなみ海道でサイクリングをしたいという願望が最初にあり、そこから想像が膨らむ中でヒッチハイクやnoteのアイデアがズルズルと浮かんできたのです。それぐらい此岸くんとしてはこのサイクリングを楽しみにしていました。


いよいよ始まるよ。


 前日の興奮も冷めやらぬ中、朝6時に起床。
 そして向かった先は尾道温泉!本当は昨日行きたかったのですが、朝だと早朝割引で値下げされると分かったので昨晩はしぶしぶ宿泊先のシャワーで済ませていました。瞼もろくに開かず寝ぐせもついたまま向かった温泉でしたが、贅沢な朝風呂で完璧に頭が覚めました。
 諸々の支度を終え、レンタサイクルショップに着いたのが7時25分。店を開けてまだ30分も経っていないのに、既に大勢の人たちが集まっていました。しかも多くはちょっとマッチョな外国人。「すんげーニッチな観光地攻めてるな~」と尾道を選ぶセンスに感動しつつ、無事に到着地で乗り捨てが可能な自転車を借りることができました。
 ところで、しまなみ海道のレンタサイクルでは、電動自転車とクロスバイクのどちらを借りるか選ぶことができます。此岸くんはなぜか何の躊躇いもなくクロスバイクを選択していました。余談ですが、その選択が災いして此岸くんはその数日後に両膝の炎症を起こし、5月いっぱいを痛み止めを飲みながら会社に通うという生活を余儀なくされます。。。「男は黙ってクロスバイク」など訳の分からぬ古いジェンダー思考は海に捨てましょう。

 しまなみ海道サイクリングのスタートは、厳密には本州の尾道駅ではなく、海を隔てて目前にある”向島(むこうじま)”から始まります。この向島に船で渡る途中、ちょっとしたプチ事件がありました。なにかといえば、船の乗車賃として110円を1人ずつ請求されたんです。しかも現金で!!
現金を置いてきた私は「Paypayかクレジットカードやってますか?」と聞いたのですが「はあ?」と言われてしまったので、どうすることもできずタジタジになってしまいました。と、そこに「じゃあ私が払いますよ~」と、まるでペルセウスを助けるヘルメスのようにマジもんの女神が現れてこのピンチを救ってくれたのです。頭の上に天使の輪が見えるかと思いました。ともかく、その女性のおかげで私は無事に船を降り、サイクリングを始めることができたのです。全く、尾道の人たちはどれほど温かいんだ。。。(※この女性にはその場で返金しました。)

 朝8時。いよいよ、サイクリングスタートです。既に太陽は顔を出し、向島の家々に、海に、温かい眼差しを投げかけています。サイクリストたちは爽やかな向かい風を吸い込みながら、海岸を右手に自転車をどこまでも走らせます。すれ違う自転車とは軽く微笑み合い、時には道を尋ね合います。ここではスマホを頼る必要はありません。走馬灯のように過ぎ去る景色を眺めながら、各々の気持ちの行くままに瀬戸内の自然を堪能する究極のコース料理の始まりです。


写真とともに


閑散とした早朝の尾道駅
いよいよ
左に曲がりまーす
坂を上って下りると
急カーブ
ぱしゃり
因島大橋(向島⇔因島)
前途多難?
急な坂道を上ると、、、橋だ!
車道の下を走るドキドキ
因島に上陸しまーす
あれは生口橋!
蜘蛛の糸?
橋の上からの景色は堪らんです。
パーやん。
砂浜で小休憩。
お次は多々羅大橋!
レモンがなんとかかんとか…
県を越えて
ぽつん
そろそろ12時
橋、海、ざるうどん
中東赴任の初日にメッカに来ちゃったような感じかね。
ふう、、、後半戦スタート!
青って200色じゃ済まんよ
緑もね
ななめ75°
なんとか橋まで上ってきた
曲線美
まさに東洋のイシガキジマ
時刻は14時こえて灼熱の世界
照り返しもアチィ
でも美しい
ほら
ほらね
ラスボス攻略
頑張ったぜ70キロ
ぼぉ

全身の筋肉は強張り、体力は限界です。でも痛みすら心地がいい。
ほんとにこの世界は綺麗だな、なんて思っちゃいます。自然だけじゃない。海に懸ける橋や船などの人間による造形美も含めてなんとも尊い。


帰り道

そんな余韻に浸りながら、帰りはバスで戻ります。しかし面倒にも、今治から尾道までの直通便はありません。仕方なしに他のバスへ乗り換えるために途中下車しようとしていると、前の外国人がどうやら銭勘定で苦労していました。後ろから手元を覗き込むと1万円紙幣と少しの小銭しかなく、たかだか240円の乗車賃にはわずかに小銭が足りません。運転手はオロオロして、後ろの列は詰まっています。そこで、不足している120円を私が手渡し、「これで払ったらいいよ」とその場を乗り切りました。考える前に身体が動いていました。言うまでもなく、私の脳裏には乗船賃の窮地を助けてくれたあの女性の姿があったのです。

 その外国人はとても感謝をしてくれて、「ジュースを買わせてほしい」とバス停で飲み物を奢ってくれました。ジュースを片手に次のバスを待ちがてらポツポツと世間話を交わすようになり、気が付くと50歳ぐらいのもう一人の日本人男性(英語ペラペラで超ダンディー)も一緒になって、3人で尾道の魅力話に華を咲かせていました。
 そうして話題が日本食の話になった時、その外国人に対し、ダンディ日本人が熱くなって「わざわざ日本まで来て日本食を食べて、寿司とか天ぷらとか焼き鳥が最高~ていうようなペラッペラの観光客になるなよ!」と饒舌に語る一幕がありました。言われてみると仰る通り、海外には知られていないけど美味しい日本食は腐るほどあります。しかし、外国人からすればどうやって見つければいいか分からないのが正直なところ。そこで「じゃあ今から一緒に居酒屋行きましょうよ!食べたことない日本食たくさんありますよ!」と試しに言ってみると「行こうぜ」という流れになり、そんなこんなで盛り上がっているとバスは尾道駅に停車しました。

 連絡先を交換してホテルに荷物を置きに行き、軽く身体を休めたあと尾道駅で待ち合わせ。もう一人のダンディ日本人は用事があるらしく、結局、私とその外国人の2人で居酒屋に行くことになりました。まずはキリンの生ビールを頼み、ポテサラ・きゅうりの浅漬け・枝豆・だし巻き卵・牛すじ煮込み・豚平焼き・ハラミステーキなどなど。飲み物も、ビールの次はレモンサワー・焼酎など「これでもかっ」というぐらい色々なものを注文しました。
 ちなみにその外国人はオランダ出身の35歳。IT関係(ソフト面)の会社で新卒で入社してから10年以上働き続けつつも、ずっと日本に来るのが夢だったらしいです。そこで「日本を旅したいから3か月休みをくれ。無理なら辞める」と強気の交渉をしたところ、上司は理解を示して”休職”扱いにし、晴れて日本を周っているところでした。それにしても、日本を3ヵ月も自由に周れるとして、尾道を選ぶセンス良すぎません?オランダの社会や経済の話を教えてくれたり、私は日本のビジネスマナーを紹介したりして、とっても楽しい時間を過ごしました。
 そして楽しいひと時は一瞬で過ぎ、お会計。案の定、覚悟していた通りの”なかなかの金額”でした。当然のように割り勘だろうと財布を開けた瞬間、「僕が払うよ」とその人はニコっとしながら私の動きを止め、流れるようにお会計を済ましてしまいました。さすがに申し訳ないといくらか渡そうとすると、「ここは僕が払わないといけないんだ」と譲りません。というのも、実はこの2週間前、この外国人がとある日本人の年上のおっちゃんとご飯に行ったとき、「ここは私が払うよ。でも私には何のお返しもしなくていい。君がありがとうって思った今の気持ちを忘れずに、次に君より若い人と一緒に食事に行くときには君が払ってあげなさい。そして同じようにその子にも伝えてあげなさい」と言われてものすごく感銘を受けたみたいなんです。そして、その外国人にとって、最初の”若い人”が、なんと私だったのです。お会計をしながら、「僕にお返しはしなくていいから、君が将来若い人と食事に行くときがあれば君が支払ってあげなさい」と今度はその外国人が私に伝えてくれました。私の心は、いくら感謝してもしきれない気持ちで溢れていました。


尾道 ー それは人の温かさがまわる場所。

 行き道、渡し舟でのピンチを助けてくれた1人の女性。
 それがあったから、帰り道、バスでの外国人のピンチを私が助けられた。

 2週間前、外国人と食事に行ってご飯を潔く御馳走したおじいちゃん。
 それがあったから、今日、その外国人は私に最高の食事を御馳走してくれた。

 私たちがどれほど他人に善行を施しても、そのリターンは直接自分に返ってくるわけではない。だからその努力は馬鹿馬鹿しく思えるし、「喜んでもらえる」と期待すればするほど虚しく感じてくる。たしかに、私たちがこの世界に、他人に、与えられる影響は微々たるものかもしれない。けれど、微々たるからといって簡単に否定されていいものではない。小さな努力が灯した明かりが微々たるものでも、その明かりを消すことは誰もできない。
 きっと、自分のひとつひとつの行いが周り回って、他の人の行動を形作っている。行動に対する対価は必ず与えてもらえると期待することは違う。けれど、行動に対する対価は、また別の他者に与えられ、そうやって連鎖が生まれる。その連鎖には期待していいと思う。それが今の自分の希望だから。

 そんなことを思いめぐらす帰り道。

夜の尾道


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