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#31 わかたれる私たち、ままならない読書

血液型で人間の性格をたったの4種類に分けていた時代からずっと、私たちは「人間をタイプ別に分類する」という営みに奔走され続けていると思う。
巷で話題のMBTI診断、私は提唱者というやつだ。
それも2種類に分かれるうちINFJ-Tというダウナー気質の方。

提唱者(INFJ型)は最もまれな性格タイプですが、社会に大きく影響を与える人たちでもあります。
強い信念を持ち、理想主義者である提唱者は惰性で生きる人生には満足せず、自身が立ち上がり、ものごとを改善したいと感じます。お金や地位を得ることを成功とは考えていず、人助けをしたり、世の中にポジティブな変化をもたらしたり、達成感を得たりすることを成功と考えるタイプです。

提唱者の性格タイプが非常に珍しいからかもしれませんが、本人が自覚していない場合も含めて、「自分は大抵の人とは違う」と感じている傾向があります。豊かな内面を持つ上、人生の目的を見つけたいという深く揺るぎない思いがあるので、提唱者は周りの人となじまないこともあります。周りの人に受け入れられたり、親密な関係を築いたりするのは不可能という意味ではありません。ただ、「人に理解されない」「社会全般と相いれない」と時々感じるのです。

共感力が強くて、表現やクリエイティブな活動に長けているけど
過度に内省し自己犠牲するきらいがある人。だそうだ。
もう、それでいいですという気持ち。
性格はそんな感じで、外見についていえばブルーベースで、骨格ストレートに分類されるみたいだ。
Xで「#骨スト共有コミュニティ」なるものを眺めていると、骨格ストレートの女性たちが編み出した洋服のスタイリングや、戦利品の情報が日夜飛び交っている。
「トップスは首が詰まったデザインは避ける」「ドロップショルダーは苦手」「ボトムは落ち感のあるIラインが得意」このあたりっつーのが定石らしい。
いいねを集めているのはSHEINやGRLやGUのアイテムに関する投稿が多くて、なんとなく”ほしい情報はここにはない”と悟る。
このへんのブランドのプロダクトが概して粗悪品というわけでは勿論なくて、心から気に入るものがプチプラで買えるならそれは喜ばしいことだ。
だけど、商品画像を見ただけで判るぺらぺらのブラウスなんかが”上半身の厚みを拾わない”とか、逆に”肉感的なエロいお姉さん感が出せる(本当だろうなァ!)”みたいな理由で「骨スト大優勝!」なんて持て囃されているのを傍観するのはどうしたって虚しい。
ファッションの高揚感など彼女たちには二の次なんだろうかと、少しげんなりする。
さらに末恐ろしいのは、骨格ウェーブ、ナチュラルと、同じ大きさの渦があと2 つ存在するインターネットだ。

ほどほどに参考にしたりしなかったりしながら、好きなフォルムと色彩を纏って機嫌よくいたい。

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マール・コウサカ氏の著書「すこやかな服」をお借りする。
早めに返却しなければ相手に悪いなという思いもあってどんどん読み進めていたのだけど、途中からはコウサカ氏の軽やかな筆致と、デザイナーとしての痺れるような矜持にわくわくして、あっという間に読み終えてしまった。途中、ページ右上のドッグイヤーや文章の上を走る蛍光イエローにハッとする。持ち主のだろうか。こういう本の読み方に少し憧れる。
(スペース削減とお小遣い稼ぎのため、気に入った本以外は読み終えたら売却することを見据えて自分の本はなるべくまっさらに保つ習慣がついた)
よく読み込まれた本にどこか誇らしげに残るページの角折れやハイライトというのは概して、その瞬間に”忘れたくない”と読者が強く願った軌跡であり、知を貪欲にみずからの身体に取り込もうとする行為だったはずだ。
そこはかとない官能すら憶える。
あまり大きな声では言えない。

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小学生の時に「◯型 自分の説明書」という本が血液型のぶんだけ出版されて、それが驚くべきことにベストセラーになった。私も多分に漏れず「A型自分の説明書」の熱狂的な読者になったのだから当時ちょっとしたバスり本だったんだと思う。
内容は今思うとありふれた血液型占いだったのだけど、書かれている全ての項目がA型の自分の性格を言い当てているように思えて、当時の私にとって血湧き肉躍るような鮮烈な読書体験になったことを覚えている。
当てはまる項目にチェックを入れられるような作りになっていたからほとんど全部のページにチェックを書き込んだし、アンダーラインやハイライトをびっしり引きまくった読後の本をクラスメイトに(半ば押し付けるように)貸し出すことも厭わなかった。
あの頃みたいにアグレッシブに読書に勤しむのも悪くないかもしれない。

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次の予定までの暇つぶしに立ち寄った有楽町の本屋で、最果タヒさんのサイン入り新著が売っていたので迷わず購入する。

戦争の名前になる花。
この世界の名前にいつかなって。
花びらを落としていく、その花びらの隙間で眠るぼくはそのまま、花びらになったつもりでこぼれて落ちていく、
誰かの涙になってみたかったから嬉しかったよ、ふと、上から落ちていく人は、誰かの涙になりたかったのかもしれないと思う。
ぼくではなく、あなたでもなく、今どこかで泣いている人の涙と同じになって落ちて、知らぬ人の悲しみとして死ねたらよい、と思って、
落ちているのかもしれない、
どこまでも地面にたどりつかないまま誰かの涙であり続けられたら、それは初恋だよ、どうしてその人ともっと早く出会えなかったのだろう、
どうしてあなたはぼくを知らないのだろう、
死ぬときに見る夕焼けは美しいと聞いて、最後に目を開けた時に、
光が見えた、薔薇の形、薔薇のにおい、そうしてまだ夜なのに真っ赤な空、
ぼくは、これから誰かに愛されなくてはいけないと思った、
何年かかっても、ぼくはここからなら生きていけると思えた、
どこまでも誰かの涙になる覚悟だけがある。
ぼくはぼくを死んでしまえばいいと思った、その日に。
誰かの涙になる覚悟だけがあり、だから空がとても赤く燃えている。
ぼくは愛されたい。

最果タヒ / 薔薇

誰かの涙になる覚悟だけがある、だなんて。
全部の行が刺さりすぎて、心臓を抑えるように大切に読み進めている。

「あの夕日だって、いつかきみのために砕いてみせる 最果タヒ」
銀色に光る直筆の走り書きを撫ぜる。

かなしくて美しい言葉ばかりを好きで集めている。

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