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2022年に聴いていた音楽

自分用の備忘録として、今年聴いていた音楽を思い出しながらさらっとまとめておこうと思います。12月になるとSpotifyが自動でまとめを出してくれるけれど、別にSpotifyだけじゃなくてCDやレコードやbandcampや、はたまたYouTubeで聴いていた曲もあるし、そういうの、ざっと記録しておかないとメディアやサービスの終焉とともに記憶が薄らいでしまいそうで。

今年はなんと言っても夏前にニコライ・カプースチンにハマりまして、そこからずっとカプースチンばかり聴いています。5月の日記に書いたように、YouTubeで知ったあとすぐに自作自演盤を探しに行って、それを聴き倒しては次の作品、また次の作品というように。

川上昌裕 - カプースチン ピアノ作品集1

ジャズを構成する即興性・不確定要素を噛み砕いて、クラシックの枠組みで説明してくれたことがツボに入ったのかも。この音楽気持ちいいなで終わりじゃなくて、慣れ親しんだバッハの音楽のように、繰り返し聴いていれば意味が分かってくる、読解可能な音楽になった。教習所への往復でこの川上先生のアルバムをよく聴いていて、フランス組曲風にまとめた"Suite in Old Style"が大好きになりました。

今年発売されたカプースチン関連のアルバムを漁ってみると、12月には辻井伸行さんの新譜に「8つの演奏会用エチュード」が全曲収録されたし、ドイツのFrank Dupree Trioがカプースチンの主にピアノ独奏曲をジャズのスリーピース用に編曲したアルバム"Blueprint"がめちゃくちゃカッコよかった。

カプースチンの音楽には躍動、生への喜びのようなものが溢れていて、単純に聴いていると元気が出てくる。Frank Dupreeは原曲のピアノソロに緻密に織り込まれたベースラインとリズムを抜き出して、それぞれに楽器をあてがうことで、ジャズをクラシックに翻訳した音楽を再翻訳するような試みを行っており、まるでカプースチンの頭のなかを覗き見るような感じです。

Francesco Tristano - On Early Music

古楽と現代音楽、テクノを行き来するピアニスト、フランチェスコ・トリスターノが春先に発表したアルバムは、ある意味で彼の原点というか、時代間の往来すら意識させないくらいの自然さをもって、ひとつの音楽として取りまとめた傑作でした。自作曲からフレスコバルディ、また自作曲そしてギボンズというように21世紀と17世紀を行ったり来たりするんだけど、すべてが「今」の音として響く。古楽が単に古い音楽でないことは古楽ファンには自明のことで、いつでも血の通った生きた音楽として聴いているのですが、トリスターノはそれを腕前ひとつで誰にでも分かる形で証明してくれる。4曲目の小さな変奏曲"Serpentina"が特にお気に入りで、わたしの中で2022年を象徴する音楽をひとつ選ぶならこれかもしれません。

JakoJako & Rødhåd - In Vere

今年出たテクノのアルバムならこれ。リスニングのムードとフロアへ向かうテンションを併せ持っていて、なおかつモジュラーシンセの粒の粗い生々しい音をミックスの手腕によってハイファイな音像に落とし込んだ、聴きごたえのある作品でした。いいヘッドフォンやスピーカーで、なにか抜群に音のいい4つ打ちテクノを聴きたいなというときはこれを聴いていた。

Whytwo - Ghost

今年出たドラムンベースのアルバムならこれ。作品を通して落ち着いたハーフタイムのグルーヴでありながら、ビートの解像度は常に170オーバーで気持ちよく踊れる。前述のRødhådのアルバムもそうだけど、リスニングとDJツールのどちらにも傾かないというか、両方の要素が同じ座標にレイヤーされている感じが今年の自分の好みだったのかな。エモーショナルながらも具体的イメージを表現せず、逆に聴いている側の想像力を広げるような音楽でした。Blu Mar TenにハマったのはFrederic Robinson以来だったな。

NO! - Bee Bite, Sweet Honey

2022年最も刺激的でスリリングだったテクノ。わたしはテクノという音楽に単純に気持ちいいダンスミュージックを求めるのと同時に、たまらない未来への不安や未知の感覚を喚起するもの、もっと言えば「誰も聴いたことのない音が宇宙に誕生する瞬間」を求めているのですが、30分にも満たないこの短いアルバムにはそうしたものの片鱗を感じました。

M. M. Keeravani - Etthara Jenda (from "RRR")

「RRR」観ました? 観て!? 公開2日目に行き、2ヶ月経ってからまた観に行きましたが、おもしろすぎて頭おかしくなる。全カットが画としてキマっていて、全アクションが音と完璧にシンクロしている気持ち良さ。その意味でナートゥダンスは言うまでもなく良いんだけど、エンディングのこのテーマこそがまさに画竜点睛で、作品の祝祭的ムードを決定づけてくれる。わたしこのテルグ語の音の響きが大好きで、どことなく日本語に似ているというか、懐かしく聴こえる。アルファベットの字幕が出る上記のリリックビデオでは、それをじっくり追うことができます。

Spotifyにも各3言語版、それも歌曲集と3作に分かれたBGMサントラ、作中セリフを編集した"Dialogues"とバージョン違いが多くて探しにくいのですが、テルグ語版の歌曲集が下記です。YouTubeの公式ビデオクリップと合わせて毎日聴いていた。

ザ・リーサルウェポンズ - アイキッドとサイボーグジョー

2月に出たメジャーファーストアルバムは、ザ・リーサルウェポンズの美味しいところを幕の内弁当のようにぎゅうぎゅうに詰め込んだ、サービス過剰で正しく決定版のような作品でした。「半額タイムセール」や「押すだけDJ」のような従来のポンズ節を煮詰めた濃いめの味がある一方で、「さよならロックスター」や「雨あがる」のような真っすぐなメッセージに打たれたし、「川中島の戦い」や「快走!ラスプーチン」のような純粋な楽曲の完成度の高さに痺れた。世情によって観客との「ツイン怒号システム」を封じられるという最大の逆風下にあっても、このアルバムの楽曲を引っ提げてジョーさんとアイキッドさんがライブで全国を駆け回る様子は、ただカッコよかったです。拍手喝采!


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