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黒い家(1999)殺人欲求>>>保険金。

 ヒトコワ邦画の代名詞のように言われる今作。
最近は一人で「これずっと観たかってん映画祭」を開催しているため、残酷な弓に続いて観てみた。

 もっとシリアスなサイコ映画かと思っていたのだが、実際は演出や役者陣の演技がかなりクセつよで、笑えばいいのか怖がればいいのか分からず終始"半笑い"みたいな顔で観ていた。終盤の「乳しゃぶれぇ!!」「下手くそ〜!!」の時点で私は自分がいかに陳腐でつまらない人間なのかを悟った。精進しなくては。

 作中の設定が夏であり、大竹しのぶさん演じる幸子は黄色がイメージカラー。ひまわり、海などが繰り返し出てくるので #夏に観たい映画 にエントリーしておこう。ワクワク。


<あらすじ>

金沢にある昭和生命北陸支社に勤務する若槻慎二はある日、中年女性から「自殺でも保険金は下りるのか」との電話を受ける。翌日、菰田重徳という契約者からの呼び出しを受け家に赴いた彼は、そこで重徳の継子・和也の首吊り死体を発見する。

Firmarks


<感想>

※ネタバレを含みます※

 保険会社に勤める若槻は不器用ながら一生懸命に仕事をこなしている。顧客や上司、部下に対する態度も真面目そのもの。そこに「自殺でも保険金は降りるのか」と電話をかけてくるのが大竹しのぶ演じる菰田(こもだ)幸子だ。これが幸子の初登場シーンだが、この第一声だけで幸子という人物の異常性を表しているのだからすごい。大竹しのぶさんらしい独特な間の取り方とゆっくりとした話し方がより一層不気味さを引き立てる。

 幸子の夫である菰田重徳もなかなかの曲者で、何かの病気なのかずっと不規則に体を揺らしている。単調で抑揚のない喋り方からは感情が一切読み取れない。まだ幼い息子の首吊り死体は顔にモザイクがかかっている。映画の中でもなかなか出会うことのない絵面だ。

 不穏な雰囲気を醸し出すためか、途中でビリビリとかジッという不快な効果音が入る。たまに入る明らかに滑稽なシーンやエロ要素の意図がよく分からなかったが、何かの比喩であろう抽象的な映像を断片的に組み合わせる手法と思われる。すごくよく言えばシャイニングやトレインスポッティングのような感じ。今の何?という映像が一瞬挟まるのだ。作り手の趣向が強く表現されている。

 保険金を受け取るために夫の両腕を切断し、邪魔をした人間は次々と始末していく幸子。映画中盤からラストにかけてその猟奇性が顕著になっていく。

 若槻に腹を立てた幸子は彼の部屋に侵入して室内をめちゃくちゃにし、交際している彼女を拉致監禁する。若槻の会社に侵入した幸子はついに彼と直接対決することとなり、取っ組み合いの最中なぜか若槻に熱烈なディープキス。たわわに実った乳房を出して若槻の顔面に押し付け「乳しゃぶれぇ!!」と舐めさせる。私はこのくだりを口をぽかんと開けてみていたが、まぁこれが幸子という女なのだ。冷たい熱帯魚のでんでんも意味不明な命令してくるし。同系列のサイコパスだと考えると妙に納得。

 幼い頃から風変わりだったという幸子と重徳。幸子は保険金目当てで寝ている間に親に手首を切られた経験があり、だから自分も保険金目当てに殺人をしているのだと話す。ちょっとその免罪符じゃ足りないんじゃないかと思うくらいイカれているけど。後半は保険金なんてどうでも良い感じすらしてくる。

 主人公である若槻がすごくビビりで、オーバー気味に怖がるのが観ていて少し気になった。普通こういう映画だと登場人物も時間の経過とともに成長していき最後はそこそこ勇敢になると思うのだが、若槻は最後までビビり倒しており耐性がつかない。

 シニカルな面白さやブラックユーモアを目指したのか…私な原作未読なため何とも言えないが触れ込みとは少し違った映画。それでも日本映画史に残る大竹しのぶの怪演は一見の価値あり。アマプラで有料レンタルできます。古い映画なのでお安めです。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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