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最近聴いてよかった音楽 24/10

最近聴いてよかった音楽です。新旧混合。


ひかりのないまち / Zoka to Soragoto

知り合いのレーベル・KAOMOZIから出たEP。KAOMOZIはオーナー駒澤零氏の趣味もあってどの作品にもテクノポップや00年代エレクトロに通じるオーラがあるのだが、今作は異色のフォークトロニカ。

空中泥棒に近いエッセンスもありながらもそこはKAOMOZI、Maltine的なネット音楽の色彩も帯びている。メロディセンスもあり、KAOMOZIリリースの中で一番好きな作品。

作者曰く郊外をイメージしたらしいが、東北民の私が想像する郊外よりもはるかに発展している。空虚な未来というべきか。これは関東の郊外だ。


KAELA / 木村カエラ

知人から「初期の木村カエラはガレージやオルタナ寄りだよ」と聞いて今更初めて聴いた。なるほど確かにガレージ、というかパンクロックである。メロコア好きが聴いてそう。

なんでもこの頃木村カエラは「音楽オタクからの受けの良い女性ロッカー」というイメージがあったそうな。私は完全に平井堅とかと同じ枠のJ-POP歌手として捉えていたのでかなり意外。彼女以外にも、後年に付いたイメージ故の偏見が私の中にまだあるに違いない。


Absence / Kimbanourke

韓国人SSWによるデビューアルバム。フォーク作品集である。韓国の音楽というとNew Jeansを筆頭としたK-POPやParannoul等の打ち込みロックのイメージが最近は強いが、元々はキム・ジョンミなどの韓国フォークで有名だったことを忘れてはならない。そして本作はその系譜に連ねたい素晴らしい作品。

「フォークギター一本でできることは全部やるでえ」という気概に満ち満ちており、様々なアプローチによる楽曲で楽しませてくれる。それでいてアルバム内で断絶感がないのもすごい。音像もアコースティックかつ透明感のあるもので非常に心地よい。

フォークアルバムとしてこれ以上ないほど完璧である。今年のアルバムの中でも指折りの出来。ゴンチチがラジオでかけてそう。


Divine Music from a Jail / Oidopuaa Vladimir Oiun

Oidopuaa Vladimirはロシアの一部であるトゥバ共和国出身。33年間冤罪で牢屋に閉じ込められており、その間に喉歌とアコーディオンを合体させる独自のスタイルを生み出した。このアルバムはトゥバの人々に影響を与え、現代トゥバ音楽の礎を築いたそうだ。

低いだみ声のボーカルと流麗なアコーディオンとの組み合わせが新鮮である。志人に通じるある種の祈りも感じられる演奏だが、これはキリスト教の信仰も取り入れたものらしいので納得。最高の音楽は最悪の状況下でうまれるのだ。

ちなみにこのアルバム、意外にも初出は1999年。Oidopuaaも1949年生まれでつい十年ほど前まで存命だったらしい。古そうな音楽に聴こえるがかなり最近の音楽である。


Don is Cowboy / Animo Computer

どういった経緯で買ったか完全に忘れるほど前に買ったCDがこれ。たしかAmazonで安い順にCDをソートしていたら見つけたんだったと思う。全く聴いていなかったのでこれを機にPCに取り込んでみた。

制作者のAnimo Computerはヴィジュアルアーティストらしく、たしかにジャケ写に90年代グラフィックデザインの雰囲気が。中身はというと、チープな宅録テクノである。気の抜けたエレクトロポップの中に前衛の空気感があり、90年代の音楽好きが機材をいじり倒しているようなほほえましさがある。チープではあるが、愛嬌のある素敵な作品。

当時の普通の宅録はこの程度だったのだろう(実際90年代の他の自主制作作品もこんな音像だし)。同時期に宅録の手法で制作されたFantasmaの完成度の高さを痛感する。


Burnt Afternoons Beneath the Sheltering Sky / The Tampico Bombers

ロサンゼルスのカントリーバンド。色々調べてみたが公式YouTubeの登録者も20人弱で、ネットに情報がほとんど転がっていない。しかもBandcampに記載されているメンバー名も嘘っぽいらしい。本当に謎のバンドである。

しかしながら作品の出来は一流。歌いまわしやコード進行に浮遊感が感じられ、カントリーバンドながらもサイケデリックな耳触りのする癖になる音楽である。なんでも向こうのストーナーロックの界隈ともかかわりのある存在のようで、そこのエッセンスが入っているのかもしれない。

一言で言い表すなら、すごくアメリカ。ルート66とかで延々と流れていそう。


The Abys / Malcom Pardon

ストックホルムの電子音楽家の作。以前はエレクトロ一筋だったらしいが、最近はピアノ主体のモダンクラシカルを作っているらしい。

本作もピアノアンビエントだが、リバーブのかけ方にVaporwave的な質感があるのが特徴的。むしろVaporwaveにピアノを混ぜ合わせた、と言った方が適切なのかもしれない。Vaporwaveはもはや廃れたジャンルと化していると思っていたので、この手の表現で新しいことができるのかと驚いてしまった。


Stegosauro / Stegosauro

イタリアのエモバンドによる昨年の作品。

エモにはスクリーモ系のエモとポストロック系のエモがあるが、このバンドはその両者を橋渡しするような音楽性。スクリーモをベースにポストロック的な展開やギターを見せる、エモの権化のようなバンドである。

まったく別物のような両者が同一ジャンルにくくられているのをずっと疑問に感じていた私にとって、その疑問を解消してくれるアルバムだった。


hyougaki / macaroom

既に各所で話題になっていた、macaroomと知久寿焼によるEP。前に両名がユニットを組んで「月がみてたよ」などをやっていたのを覚えていたが、まさかまだ続いているとは思わなかった。

前半二曲はmacaroomによる曲。退廃した世界観の歌詞とFishmans的ダブが組み合わさった楽曲たちだが、意外にも知久寿焼の声に合う。ここにきて新境地を開拓している。アサヒさんの抜群のセンスのたまものである。

後半の知久さんによる曲も安定して良い。まさか知久寿焼の詞に「コロナ」が登場する日が来るとは思わなかった。


拝借 / かえる目

先日「邦楽オールタイムベスト100」の企画が数年ぶりに復活し、Twitterでも実際にその企画に投票した私的ベストをツイートしている人をちらほら見かけた。その中でも異彩を放っていたのが寺川マンホールさんの選盤である。

円盤レコードや難波Bears系の、山本精一的「うたもの」の詰め合わせである。このジャンルはここまで体系立てて紹介しているものが少ないので、非常にありがたい指針になった。この作品もそのうちの一つ。

基本的には朴訥としたボーカルをやわらかいフォークバンドが支える優しい音楽性ながら、シュルレアリスム的な世界観の歌詞や不意に現
れる破壊的即興など、一筋縄ではいかない斜に構え方をしている。羅針盤の音楽性を2010年代にやったような雰囲気。個人的には戸張大輔に次ぐうたもの名盤になりそうである。



その他もろもろ

・折坂雄太の新譜のPVがモキュメンタリーホラーっぽくて笑ってしまった


・個人的に聴きたかった八木山合奏団がいつの間にかサブスクに。同郷の70年代フォーク。


・みんな大好き塊魂のサントラがサブスクに!この調子で塊魂トリビュートもお願いします


・韓国のラトルズ。日本のGogglesとなんかやってほしい。

・嗅覚芸術を提唱している記事がNOSE SHOPのマガジンで出ていた。たしかに実体がない音楽が芸術として認められるのであれば、香水もそれと同格の芸術として認められるべきである。


・香水と音楽の類似性については資生堂のノヴェルティとして配布された吉村弘のアルバム"A・I・R"をはじめとして、アンビエントではよく取りざたされている。最近ではKankyo Recordsのアロマエッセンスとカセットを一緒に売っている作品もある。しかし、アンビエント以外だとほとんど見ない。より広範の音楽で嗅覚芸術を取り入れた表現が見られるようになると面白い。


・高校時代から読んでいた漫画・CITYがアニメ化するらしい。しかも京アニ。これは嬉しい。


・日常もその傾向があったが、CITYはさらに節々に古い音楽や漫画のパロディが盛り込まれている。一番凄いと思った点は鈴木英人の表現技法「空飛ぶなめくじ」を漫画の符牒として使っている点。これは大発明だと思う。

鈴木英人の名作・山下達郎"For You"のジャケ。ひらひら飛んでいるのが「なめくじ」である。
CITY13巻表紙。よく見るとなめくじが描かれている。

・ちなみに、あらゐけいいち氏は大滝詠一好きである。他に大滝詠一ファンを公言する漫画家は和田ラヂオ氏、久米田康治氏がいる。大滝詠一ファンは何故かシュールギャグに走るらしい。

・そんなわけでCITYのアニメにはOPかEDにシティポップを使ってほしい。山下達郎のパレードとかよさそうだと思うが、果たして。


・引っ越した。


・DJをやりました。楽しかったのでまたやりたいです。気軽に呼んでください。


サポートしていただくとマーマイトやサルミアッキなどを買えます。