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今年聴いて良かった新譜を15枚並べる記事2022

毎年恒例良かった新譜を紹介する記事です。全ての音楽ファンは年間ベストを書くためにnoteをやっていると言って過言ではありません。

30枚とか50枚とか選んでいる人が多い中、題名の通り毎年15枚だけ選んでいます。無暗に多くても読み手が疲れてしまうし、書き手も一枚一枚に向き合う時間が少なくなってしまう気がするからです。あとは僕が旧譜に比べて新譜への熱量はあまりないから。

今年は例年以上に良い新譜が多かったですね。平均値がかなり高い感じ。それ故甲乙つけがたいところも幾つかありました。そんな今年のベストは以下になります。ご査収ください。


15位 結束バンド/結束バンド

いきなり話題作からスタート。アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」のサントラ。アニメ本編は音楽パロディが随所に散りばめられた下北沢賛歌に仕上がっているが、サントラも様々な00年代邦ロックを髣髴とさせる音楽になっている。ただ、今時00年代リヴァイバルをやったところで僕は年ベスには選ばない。このサントラの白眉はアニメサントラ故の「可愛らしさ」だ。

邦ロックは直向きに「音楽のイデア」を追うような、真面目な音楽だと思っている。しかし真面目な音楽は隙がなく、それ故にシリアスになりすぎるきらいがある。
それをアニメのフィルターを一回通して可愛げを添加することで邦ロックにはない「」を与え、独自の音楽へ昇華しているのが本作のユニークな点だ。これはBaby Metalにも通じる。

特にバランスが素晴らしいのは「転がる岩、君に朝が降る」のカバー。今の時代にこれを歌う意味も少し考えてしまう。



14位  Stella Epoca/Sawako

今年は皆既月食と何百年ぶりの天王星直列が噛み合うド派手な天体ショーがあったが、そんな惑星運行をテーマにしたアンビエントアルバム。冬至や皆既日食などの瞬間に録音されたフィルレコや楽器の音をフィーチャリングしているらしい。

なんといっても音が良い。アンビエントは出音が命だが、まるで耳元で鳴らされているかのようなフィルレコや鈴、弦の音は心が洗われるよう。また宇宙をテーマにしたアルバムは近現代的な印象になりがちだが、このアルバムでは現代的なIDM風アンビエントと同時に民俗音楽チックなドローンも聴かせてくれる。現代と古代とを結ぶ懸け橋のような音楽性だ。

驚きはないが、それ故の優しさに満ち溢れているアルバムになっている。ウン十年後、宇宙旅行が可能になったら是非持っていきたい一枚。



13位  Storm-Drunk Whale/21st Century Little Prince

Parannoulを発端に、一部界隈で話題になっている韓国インディーからの新たな刺客。

今作はシューゲイザーとアンビエントの狭間でドリームポップをやっているような不思議音楽。なんでも小久保隆や久石譲が好きらしく、それ故か日本の環境音楽でしばしば耳にするマリンバライクなポコポコ音が要所要所で使われている。バンドサウンドの上でこの音が鳴るのはとても新鮮。その他もところどころに環境音楽風のアレンジを施している。

Miles Apartあたりから出ていてもおかしくない雰囲気。まだ広く知れらていないが、いずれ有名になる可能性を秘めている音楽家だ。

また彼はブログをやっており、そこでは制作風景や好きな諸々についての雑記が記されている。気になる人は見てみよう。どうやらpanpanyaが好きらしい。



12位  Emigre and Exile/Arcomusical

ビリンバウというブラジルの楽器を用いた6人組楽団。ビリンバウは一本だけ張られた弦を棒で叩いて演奏する楽器で、カポエイラのBGMに使うらしい。

このアルバムではビリンバウ伝統に則った新曲が収められている。多くてもビリンバウといくつかの打楽器、ウッドベースというシンプルな演奏ながら、カポエイラがサンバの原型ということもあってかかなりダンサブル。伝統音楽ながら明るく賑やかな雰囲気を醸し出す音楽性はペンギン・カフェ・オーケストラにも通じる。伝統音楽を現代の音楽と対等に渡り合わせようという意気込みを感じる意欲作だ。

個人的には蒸し暑い夏の日の遠出に聴きたい。ディズニーランドとかで環境音楽として延々鳴っていそう。



11位 アイランド/明日の叙景

最早説明しなくて良いんじゃないかなレベルで皆聴いていた作品。一言で言うなら「メタルの語法でシューゲイザー」なアルバムだ。

実はシューゲイザー風メタルは結構やっているがおり、なんなら去年の年間ベストに選んだ。その時は「こういうのがもっと増えてほしいな~」なんて思っていたがその続編みたいなのがおバズりあそばされていたのでビックらぽん。

このアルバムの素晴らしいところはメタルは暑苦しいというイメージから完全に脱却している点。シューゲイザーの感性を取り込んで、透明感のあるハードロックという唯一無二のモノを作り上げている。メタルアルバムに一見似合わないアニメ調のジャケも、この音楽性ならピッタリだ。

一体どういう過程でこの作風に行きついたのか気になっていたが、どうやらポルノグラフィティやDeepersとからしい。なるほど確かに。さらに本人作成のリファレンス元プレイリストもあるので気になる方は是非聴いてみよう。



10位 群像/masagumi sato

印象的な猫のジャケだが、こちらは作者の愛猫。亡くなってしまった猫に捧げる弔いのアンビエント作品になっている。

揺蕩うようなドローンの中でフィルレコや猫の声が変調されながら続くさまは14位の"Stella Epoca"にも通じるが、こちらは亡き猫への思いともいえる情念が感じられる。緩やかでしみじみとした音ながら熱い気持ちが伝わってくる作品だ。様々なレクイエムの名作と同じ質感・情感を併せ持っていると言えるだろう。

個人的に音楽には「信仰」が一番大事だと思っているのだが、解説でMeditations門脇氏が指摘するように、これぞまさしく信仰の音楽である。宗教ではない意味での信仰心が今年で一番前面に出ている作品だった。



9位  Somebody Up There Loves Me/Stalley

MMGのラッパーの新作。元々Rick Ross主宰のMMGにいたらしいが、今はMello Music Groupの方のMMGにいる。何故かあまり日本で話題になっていないようだが、今作はラップに特段馴染みない自分が聴いても驚くほど完成度が高い。

ジャズやポストクラシカルを感じさせるビートの上で滔々とラップしていく。感情的にならず淡々とフロウを刻んでいく様は彼の以前の作品に比べると大分内省的。(音楽的な意味での)スピリチュアルを多分に感じさせる作品である。

ラップアルバムだとSome Rap Songsが一番好きなのだが、それに似た一種の諦めや悲しみを感じる作品になっている。基本的にアッパーなジャンルでこの類の感情を表現するのに頗る弱い。



8位  Blue Blue/Sam Gendel

みんな大好きSam Gendelの新作。今作は日本の紋様をモチーフにしたコンセプトアルバムになっている。

今までかなり前衛的なサックス捌きを見せてきたが、ここでは一転流麗でどこか恐ろしげなジャズギターを披露している。遠隔でコラボしたというパーカッションが怖さを引き立てる。もちろんそれに乗っかる不安定なGendel印のサックスも健在。
紋様というより、四谷怪談のような雰囲気を醸し出している。この恐ろしげながら美しい空気は子供の頃に歩いた夜中の道を思い出す。

Sam Gendel諸作で一番アルバムとしての完成度が高いように感じた。Sam Gendel入門一枚目のみならず、スピリチュアルジャズ初心者にもお薦めできる好内容。


7位 There’s Nothing But Pleasure/Bubble tea and Cigarettes

Elefant Recordsから突如現れた韓国出身・NY在住の男女二人組ユニット。夫婦ないしは恋人らしい。仲良さそうに二人遊具に乗っているアー写が良い。

一聴してMen I Trustを思い出させるドリームポップだが、エコーの深いギターとチープなシンセサイザーが印象的。
その一方でメロディラインはK-POPっぽさ全開。韓国出身と聞く前にわかった。ムード歌謡的な空気をドリームポップ的な音像でやるのはVaporwaveを意図しているに違いない。「人力Vaporwave」の最新版と言えるだろう。
何より重要なのはポップで聴きやすいこと。ポップながらアングラ的解釈もできる音楽は向かうところ敵なしである。これからも期待している。

アルバム一枚を通して聴いてみても一つの物語を読んでいる気分になれる。美しく儚げな空気が続く様はさながら韓国ドラマのようで素晴らしい。


6位 ちるちるみちる/畑下マユ

関西在住のSSWの作品集。サブスクでは配信されていないためあまり話題になっていないのが残念。

ニック・ドレイクもかくやなガットギターの演奏に揺蕩うような歌声やメロディラインが乗せられる。
これだけでも十二分に楽しめるが、その音響がさらに際立たせる。スチールギターや管楽器類と合わさって、畑下氏の演奏の厚みと透明感をさらに増しているのが素晴らしい。

普通に良いフォークソングを、アヴァンギャルドな音響でもって披露する「うたもの」の現代版として位置することができるように思う。フォークソングというと開拓され尽くしたように思えてしまうが、こういう作品に触れるたび音楽の奥深さを知る。


5位 Shebang/Oren Ambarchi

Oren Ambarchi先生の新作。例の如くJim O’Rourkeなど強力な布陣が参加している今作では、名盤Hubrisを思い出させるようなリズミカルなギターを中心としたアンサンブルの反復が楽しめる。Ambarchi先生と言えばこの作風と思ってしまうが、意外とアルバム単位でちゃんとやるのは久々なのでファンとしてはポイントが高い。

そしてこのアルバムの恐ろしいところはシームレスに繋がる全四曲の中で楽曲の雰囲気を壊さず様々なジャンルを横断していく点にある。クラウトロックに行ったりECM風のジャズになったり、はたまたポストクラシカルの様相を示すことさえある。それでいて普通に聞き流していても違和感がない。即興ながら一つ一つ丁寧に音を選ぶ彼だからこそできる技だ。この手のミニマルミュージックの一つの完成形が示されてしまった。

Oren Ambarchi先生といえばHubrisだったが今後はShebangとなりそうだ。近年の実験音楽で一番の快作。


4位 アニメーション・トリッピング/マッチャポテトサラダ

唐突に現れた弩級の傑作。現代版Fantasmaというべき執拗なサンプリング&コラージュが施された異形の音楽だ。

雅楽から広告まで縦横無尽に音素材をかき集め、ハイパーポップも渋谷系も歌謡曲もVaporwaveも一緒くたにしたアルバムなどそうそうお目にかかれない。これを作ったのが高校生というから凄い。
いや、逆に高校生程の情熱がないと作れないかもしれない。サブスクが浸透し、若年層もかなりの音楽知識を持つようになった現代だからこそ生まれ得る作品と言えるだろう。今まで存在し得なかった、これからの時代を定義する名盤。

2022年を後から振り返った時、多分このアルバムが出た年と言われるんじゃないだろうか。このアルバムはそれほどのことをしていると思う。我々は伝説を見せていただいている。


3位 Tonkori in the moonlight/OKI

トンコリ奏者OKI氏の作品集。去年の年末に2022年ベストに入れてから高順位に居座り続けた。トンコリはアイヌに伝わっている弦楽器で、琴に似ている音が鳴る代物。OKI氏は数少ない奏者の一人で、アイヌ民謡をレゲエのセンスを混ぜながら演奏している非常にユニークな音楽家だ。

民謡ならではの西洋の音楽では絶対にあり得ないようなメロディやコードを保存しつつも、現代人の耳にも楽しく聴けるようにしているOKI氏の手腕はかなりのもの。アイヌの矜持や価値観を決して失わず、新しいことにチャレンジしていく本当の意味での「伝統」をひしひしと感じた。

ちなみに民謡クルセイダーズと同じレーベル。確かに両者近しいものを感じる。


2位 Air/Sault

Saultといえば覆面(笑)ネオソウルプロジェクトとして非常に有名だが、今作は全くネオソウルではない。クラシックと混声合唱である。

讃美歌か映画のサントラかと思わせるこのアルバムは各メディアも「新しい音楽」とお茶を濁らせるしかない。敢えて言えばスピリチュアルジャズの極北、ミニマルミュージックやネオソウルを経た黒人音楽の源泉への回帰と言えるかもしれない。しかしながらジャンルや御託を並べるのが申し訳なくなるほど神々しいアルバムだ。

音楽には信仰が必要だと常々思っているが、ここまでストレートに祈りを前面に押し出しているアルバムがあっただろうか?そしてこれ以上に生命力に満ち満ちた音楽はあり得るだろうか?これを聴いているうちに神の元へと行けそうな音楽である。

この後Saultは再びネオソウルに戻っていたが、以前より更に節々から信仰が滲み出ている音楽へと進化していた。現在最も神に近づける音楽家として、Saultは活動していくに違いない。


1位 You Who are Leaving to Nirvana/高田みどり

Saultとどっちを一位にするか迷いに迷った挙句こちらを一位にした。オメデトウ、高田みどり。

SaultのAirが神に近づくアルバムなら、こちらはタイトル通り仏の元へ旅立つアルバムだろう。高野山金剛峯寺の僧侶の唱える声明とアフリカやミニマルミュージック、ポストクラシカルを感じさせるパーカッションが絡み合い、唯一無二の音世界が楽しめる。

これを聴いて即座に思い出したのは奈良時代の東大寺大仏開眼法要だ。インド、中国、タイなど様々な国々の僧侶が東大寺に集まり、各々の伝統音楽を演奏したのだ。これは今以上に外国との距離が遠かった当時としては衝撃的なことで、以後日本の音楽に多大な影響を及ぼした。

この話を聞くと海外音楽からの影響に目が行きがちだが、それと同等に国内の音楽への再評価も進んだのではないだろうか。
多様な音楽と共に披露された自国の音楽は当時の日本人がそれまで気づいていなかった「日本音楽」をもたらしたに違いない。

高田みどりのパーカッションによってアフリカ、欧米など多様な価値観が入り込み、日本人が幾度となく耳にした般若心経も新鮮な響きをもって届けられる。そして我々はより仏の普遍性に近づけるのだ。




以上今年の15枚でした。ここに取り上げなかったアルバムでも総じて「祈り」がテーマのものが特に多かったように思う。これは戦争の衝撃が世界を覆い、神ないしはそれに準ずる存在に縋る思いがそうさせたのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
また20年代独特の音楽というのも見え始めてきた。来年あたりにはジャンルを定義づけるような音楽が生まれているかもしれない。今年は10年代と20年代の境目となる年になりそうだ。

まあダラダラ続けていても仕方ないのでここらへんで終了。来年も私EPOCALCと、主宰しているマガジンWater Walkをよろしくだぴょん。(卯年)


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