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【821回】相原コージ「うつ病になってマンガが描けなくなりました 退院編」

相原コージ「うつ病になってマンガが描けなくなりました 退院編」

発病編、入院編に続く、完結編。

僕が、パニック障害・気分変調症・うつ病と、病名が変わりながらも、精神科にお世話になって15年くらいはたつ。

この本は、入院経験がない僕にとっても、実感できる内容が多かった。

例えば、精神科に入院していた著者の生活行動範囲が広がっていく描写がある。
個室、敷地内散歩、外出、外泊と行動範囲が広がっていく。そのとこそのときの発見が描かれている。
チョコレート1つとっても、コーヒーを飲んでも、おいしい。できることが増えていく。小さくても、自分が変化していく。できることが増えていく。
この描写は、とても納得できる。

同様に、電車に飛び込みたくなる希死念慮の場面も、わかる。

実際に電車に飛び込みたいわけではない。
わかるというのは、「じわりとそれが忍び寄ってきた」(p188)という不安の訪れ。著者はその不安に背中を押されそうになる。

「もしここで、自分が消えれば、不安や苦しみから解放されるのではないか」という直感が急に湧いてくる。これは当然誤り。なぜなら、自分が消えれば、自分がやりたいこともできなくなるから。例えば、小説を読みたい。トンカツを食べたい。そんな小さな希望も巻き添えにして、自分を消し去る。余程の勢いがないと達成できない。しかし、「じわりと忍び寄る」そいつは、急に僕の心に映像を放映する。「お前はダメだ」という映像を繰り返し繰り返し。暗黒孤独の上映会。

今は調子がいいので、上映会は開催されないし、開催されても無視できる。

もしかしたら、この本を繰り返し見返すことが、心に生まれる暗闇を、僕の代わりに解消してくれるかもしれない。

僕はただただ、生きていたいと願っている。



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