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地域(社会)と関わる教育について

執筆者は普段は文化事業を行う一般社団や地域芸術祭の運営に従事しているが、その一方で大学教員としても働いている。地域(社会)と関わる教育に、かれこれ10年間、関わっていることになる。そこで得られた教育上の知見は少なくない。というか、ここまで長いと、地域と関わる教育についても、もはや「プロ」と言わない方がむしろ責任逃れだよなあ、という立場になった。そこで今後は、定期的にこういった知見を共有したい、と思う。

地域(社会)と関わる教育において、地域(社会)に役立ってない、学生にも役立ってない、教員も辛い、職員は心配(トラブル起きないか)、そういう「四方悪し」な教育の現場を残念ながらいくつか見てきた。原因はいろいろあるだろうが、文部科学省の政策(例えば、中央教育審議会の「地方の高等教育機関は地域社会の知識・文化の中核として、また、次代に向けた地域活性化の拠点としての役割をも担っていることに留意する必要がある」(2005)という談話など)の影響があげられる。これによって適正のあるなしに関わらず、大学教員や学生が地域(社会)の現場に放り込まれてしまっているのがその一因だと思う。こういった現場に対して、ぼくは問題を解消したこともあるし、私が片棒を担いでしまったこともある。某大学で担当した産学連携ゼミの初期は、残念ながら「四方悪し」だったと言わざるを得ない。連携先の企業には迷惑をかけ、学生は退学を考え、私は火曜日の夜(ゼミは水曜日)になると胃が痛くなっていた。会議で「責任とって辞めます…!(泣)」とか言ったこともあったので、職員さんの胃にもダメージはあっただろう。ちなみに学生も火曜日の夜に体調が悪くなっていたそうだ。その後、ゼミは四者がみんなが頑張り、四者間の信頼関係もしっかりできたことで、名物ゼミとも言える存在にもなったけど、初期の「四方悪し」の状態は繰り返すべきではない。こういうところで、地域(社会)と関わる教育について考えていく。

地域(社会)と関わる教育の主役は「学生」

この四者の中心はやはり「学生」だと、ぼくは思う。学生にメリット(教育効果)があれば、教員のモチベーションは上がるし、教員がやる気あれば職員は安心できるので、少なくとも3/4は解決できる。やる気さえ出れば、事中事後のソリューションを考えられるようにもなる。そうすると学生の動き自体は効果薄でも、その後別のプロジェクトで学外の関係者に良い効果を得られるパターンも多い。下記の「プロジェクションマッピング&コンサート」は、宝塚大学の専任講師として、新宿区立落合第二小学校で実施し、評判だったイベントだ。このイベントの中井と繋がるきっかけは15人程度が履修する小さな地域連携の授業であった。必修でもなく、授業自体が地域に与えた効果は小さかったかもしれないけど、その後関係が続いたことで、教員主体の「プロジェクションマッピング&コンサート」を行うことができた。このように、一気にすべてを得ようとするのではなく、まずは「学生」のメリットを最大化するような地域連携や社会連携の授業を設計することが重要であると思う。

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学生の目線を変える「三つの方向」について

次に、効率よく学生が成長する地域連携や社会連携の授業はどのようなものか?ということに移る。私の経験上、ポイントは「学生の普段の目線を変えた上で、思考を促す」ということだと思う。大学に限らず、高校以下でも地域や社会と連携した教育が用意されており、そのため今の学生はそれなりに勝手を知っている。またアルバイトをしている高校生の中には相当「社会慣れ」している者も多いし、YouTuberデビューやTwitterなどで大人と交流している者も少なくない。今、教育に関わっている教員や職員が学生だった頃よりも、高校卒業時点でよっぽど社会経験は身についているのだ。だから「いつもと違う目線」を与えないと、日常的な経験や高校までの教育体験を超えるものがなくなってしまう。こういった授業では、「なんでこれを貴重な時間/学費かけてやってるんだろう?」と思う学生も少なくないはずだ。

「学生の目線を変える」方法について、シンプルに今回は「上方向に変える」「下方向に変える」「横方向に変える」の3つが考えられる。これについて、有料ページで紹介したい。

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