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「ブレーキの効く」戦友が、アクセルを踏んだ、次の場所に向けて。

東京の職場(宝塚大学東京新宿キャンパス)の入試課長・金澤英樹さんが退職し、浅草の英会話カフェバー「Cafe Byron Bay(カフェバイロンベイ)」で働くことになりました。

経緯はこちらのクラウドファウンディング(camp-fire)のプロジェクトサイトが詳しい。6月29日(土)がプロジェクトの最終日です。みなさん、応援してやってください。


入試改革の思い出

金澤さんとは、2017年の入試改革で一緒に全責任を背負って一緒に戦った。下記に紹介したプレスリリースではスマートな部分だけ書いてるけど、本当に壮絶な戦いだった。あの時の刺激的な日々は、今でも強く記憶に残っている。

2018年問題」という、大学業界では有名な話がある。2018年から18歳人口が激減を始めることでこれから大学に様々な影響を与える、というものだ。2017年というのはそのまさに直前のタイミングで、各大学が対応を進めていた。ぼくたちが所属している学部(東京メディア芸術学部)はずっと定員割れを起こしており「今動かなければ、間違いなく生き残れない」という状況であった。そこでぼくたちは、経営陣から「入学者数を劇的に改善させよ」と厳命を受けた(具体的なノルマ数はあったけど伏せる)。ぼくは入試委員長(他にも三つの委員と一つの委員長を兼務…)として、金澤さんは入試課長として、マンツーマンで入試改革に取り組むことになった。

入試改革の際に繰り広げられた多くの話は社外秘(と言われてる訳じゃないが常識的にはそうだよね)なので言えないけど、厳しいことの連続だった。教職員に対して改革に理解をしていただくのは本当に大変だったし、上手く関係を構築できない外部団体もいた。いつもは関西にいる経営陣への説明も決して楽ではなかった。

相次ぐ障害とトラブルに対して、金澤さんと僕は一つ一つ、確認して進めていた。だけど、ぼくはブレーキが壊れたアクセルタイプ。一方で、金澤さんは石橋を叩いてわたるブレーキタイプ。ぶつかることも少なくなかった。

例えば、こんなことがあったり。5月ぐらいの話だったかな?

金澤「次のイベントには学務課の方にヘルプをお願いしようかと」
田島「せっかく入試課に新人が入ったんだから、研修も兼ねてそっちにやってもらいましょうよ」
金澤「いや新人に急に仕事をやらせる訳にはいきません」
田島「仕事少なくないでしょ?振っていかないと金澤さん潰れるから振ってください!」
金澤「ダメです。これは入試課の問題なので口出さないでください」
田島「ああそうですか!!!わかりましたよ!!!もう一生口だしませんよ!!!(←クソ子ども)明日の会議も明後日の会議もお任せします!!!あー急に仕事が楽になって良かった。さーて酒飲みいこ!!!」
金澤「…わかりました」

まあ、これは珍しく田島が上手く行った提案で(だからよく覚えているのだろう)、その後、入試課の新人たちはどんどんスキルを上げていった。ぼくが入試委員長を辞めた後の2018年も入学者数を増やすことができたのは当時「新人」だった彼女たちの力が大きいと思う。

この話は彼の部下への優しさとも言える。どこかの高校からの出張帰りにAmazonの「Kindle Unlimited」の話になり、見せてくれた本棚に「上司としていかにあるべきか?」という内容の書籍がたくさんあった。上司として、こうあろうという姿勢が明確にあった。彼は上からはシビアな要求が降りてくる一方で、それを下にも要求するようなことはなかった。

ぼくみたいなアクセル人間は「どうしても超えないといけない高い壁」を超える時には力を発揮するけど、気がつくと周りの人にも無理させてしまうことがある。一方で平常業務はいわば「いくつも超えないといけない少し高いハードルの連続」。ジャンプ力だけじゃなくて、飛び続ける持続力も必要だ。入試改革に成功したのは、金澤さんがブレーキを効かせてくれたからだ。ぼくは金澤さんに多くの無茶振りな提案をしては「それはできません」と突っぱねられた。しかし、それを全部実行していたらスタッフは疲弊して、本当に大事な時に力を発揮できなかったかもしれない。目的地に着くためには、アクセルとブレーキを使い分けることが大事、という喩えとすれば、とても当たり前のことを学ばせてもらった。

そんな金澤さんが、大きな決断をした。

職場を退職し、彼が行きつけになっていた浅草の英語カフェを引き継ぐ、というのだ。確か、一度も飲食店で働いたことはないはず。ここまで「ブレーキ」タイプと呼んで話を進めていたのが失礼なぐらいの、アクセル踏みっぱなしの大決断だ。

ただ、この話を聞いてぼくは単純に嬉しかった(まあそりゃ、あたしゃアクセルですからね…)。報告を受けた時、100%前向きに「やってみたら良いじゃないですか!わー楽しい!良い話だ!」と言えた。経験上、「ブレーキ」タイプの人間が下す、大きな決断は成功する可能性が高いように感じる。きっと次の舞台でも、僕みたいな「アクセルタイプ客」に面倒なことを言われながら、淡々とブレーキとアクセルを使い分けて、うまくやっていくのだろう。

あとは一番アクセルを踏み込む必要がある立ち上げの部分を、どれだけ周囲が支えられるかどうか、だ。

なので、もう一回紹介します。
金澤さんのクラウドファウンディング。支援してあげてください。

あと、オープンしたら一緒に行きましょう。

カフェの後に訪れる浅草の良い飲み屋は、リサーチしておきます。
浅草は結構良い店、多いですよ。

追記(6/22)

そうそう。プレゼントの話を忘れてた。

ぼくは恩人の退職のタイミングでなるべく花と本を送るようにしている。なんか理由がある訳ではなく、気がついたらそうなっていた。たぶん、誰かの影響だと思う。

花については、そこまで拘っている訳でも、拘れる能力もないので、花屋で「予算これぐらいで、男性の退職に向けて元気になれるようなものをお願いします」とか言う程度なのだが、花束を包んでいただく際に「シモツケ」という花を見つけた。金澤さんは栃木県宇都宮市出身。栃木県の旧国名は「下野(シモツケ)」だ。見つけた瞬間、「これだ!」と思っていれてもらった。

本についてはぴったりな一冊を見つけてしまった。

様々な石について美しいイラストと説明が紹介されている『石の辞典』だ。

金澤さんは京都大学で鉱物研究で博士号を取っている。だけど、これまでの仕事ではその専門を生かすことはなかった。だけど、これからの仕事ではバーテンダー(的なもの)として話題にすることもできるだろう。せっかくの博士研究。同じ博士号を持つ者として、何らかの形で使って欲しい。そう思って、この一冊を送った。

こんな感じ。

6月17日に大学で送別会を開いて、彼は有休の消化に入った。
戻ってきたら新しい職場が待っている。

がんばれ!

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