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クチナシの線

最後にあの人の肩に腕を回したけれど、わたしはあの人の肩より背中の方が好きだった。そのことを、帰り道、自販機を通りすぎたあたりで思い出した。赤くて、電子マネーが使えない自販機。コカコーラを手放した寂しい自販機。好きになった瞬間に自覚できる人っているんだろうか。わたしは、全部、いつも、通りすぎてから気づく。暑くなったら君の鎖骨のえぐれに水を注いで、浅いブールを作りたいって、たなかみさきが言っていた。朝5時すぎ、あの人の鎖骨のえぐれに指を這わせた感触を思い出して、早歩きしながら思い切り泣いた。きっとこの全てを思い出さなくなった朝に、わたしはやっとなけなしの愛をはたくのだろう。よそ見して、散らかしながらだとしても。

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