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白パン

神戸の街を歩いていたり、バイクで走りながら人間観察をしていると、ふと思うことがある。
(白色のズボンを履いている人たちが多い。)
老若男女だ。
お洒落な女性(勿論、年齢は問わない)、男性、別にそうではない女性、男性。
港町だからなのか?
いや、港町だから白色のズボンを履く理由が分からない。
太陽の光が強いから?
太陽の光が海に反射して熱くなるから?
そうかもしれない。
黒色のズボンより、白色のズボンの方が、太陽光の熱を吸収しないから。
しかし、これはあくまでも科学的事実であって、神戸市民たちが必ずしもこれに基づいて白色のズボンを履いているとは思えない。
試しに、Googleで「神戸 海軍」と検索すると、「神戸海軍操練所」が一番上に表示される。
何でも教えてくれるインターネット百科事典のWikipediaだ。
そこに掲載されてある一部を抜粋してみよう。
-この操練所は、幕府の機関でありながら反幕府的な色合いが濃いとして翌慶応元年(1865年)に閉鎖された。-
現在は2021年なので、156年前までは、神戸に海軍が存在していたのだが、果たして神戸市民たちが、156年前に神戸に海軍が存在していたという歴史的事実を強く意識して、老若男女、一人一人が白いズボンを履いているとは到底思い難い。
試しに神戸の街で、白いズボンを履いている人に、
「あなた、神戸市民を強く意識して、その白いズボンを履いていますか?」
と、私が尋ねたとしたら、その人はきっと怪訝な顔で私を見るだろう。
私は気になって、神戸は三宮にあるリアルマッコイズという洋服屋に行き、白いズボン、その店にはホワイトデニムがあるので、それを購入することにした。
「そういえば、神戸でよく白いズボンを履いている人を見かけますが、何故なのでしょうか?」
私は気になっていた疑問を店員にぶつけてみた。すると、その店員は、
「ラルフローレンが神戸にあるからではないでしょうか?」
と、答えてくれたのだが、全く合点がいかない。
だって、ラルフローレンは、東京にもあるもん。
ひとまず、その店で私は29インチのホワイトデニムを別店舗から取り寄せてもらうことにした。
接客してくれた店員は、実は店長で、別の電話対応が入り、その場を後にする。
別の店員に入れ替わり、私に、
「そしたら、白パンが入ってきたら電話しますね。」
と、爽やかに言う。
私はその場を後にするのだが、更に疑問が増す。
「神戸市民は、白いズボン(その店ではホワイトデニム)を、なぜ白パンと呼ぶのか?」
神戸市民たちだけが、白いズボンを「白パン」と呼ぶわけではないことは、私にだって分かっている。
おそらく関西弁で、白いズボンを白パンと呼ぶのだろう。
後日、私の携帯電話に着信通知が残っていた。
先日、訪れた洋服屋からなので、私は電話をする。店長が電話に出て、
「29インチのホワイトデニムが、こちらのお店に届きましたよ。」
と、非常に丁寧な声で私に教えてくれた。
(白パンって言わないんだね。)
私は心の中だけで思うことにして、謝意を店長に伝えて電話を切る。
洋服屋に向かう。
結局、私が取り寄せた29インチのホワイトデニムの形が、私が既に持っているホワイトデニムの形と似ているので、私はその店にある別のホワイトデニムを購入することにした。
わざわざ取り寄せてもらったのに、それを購入せずに手ぶらでその店を去るのは、元アパレル店員の私の信条に反するからだ。
私が会計をする前に、別の客が会計をしていたので、少しだけ店内をぶらつく。
私は革の下部(熱狂的ファン)なので、店内に飾られている革ジャンとブーツを眺めて、その時間を過ごす。
私の会計の順番が回ってきたので、店員が私に近づいてきて、
「白パンお一つのお会計でよろしいですか?」
と、私に尋ねる。
(はい、きました。白パン!)
「はい、お願いします。」
私は心の中で「白パン」と思いつつ、それは決して口に出さず会計を終えて、その店を後にする。

後日、バイクのツーリングをした時に、私の隣に座っていた大阪住まいのバイカーに、
「神戸にはお仕事でよくいらっしゃいますか?」
と、尋ねてみる。すると、
「そうですね、仕事の打ち合わせで、よく行きますよ。」
私はすかさず、
「白パン率、高くないですか、神戸?」
と、尋ねると、
「うーん、そこまで気にしたことないなぁ。」
(そこまで気にしようよ、もっと人間観察しようよ。)
私は心の奥底で声高に叫びつつも、ホットコーヒーを飲み、その後にアイスコーヒーを飲む。

どうやら、「白パン」という単語は関西において共通言語ということが分かった。
しかしながら、神戸市民の人々が、白パンを履いている確率が高いかどうかは、永遠の謎に包まれたままだ。

私は神戸で生活をしていて、神戸市内でバイクを乗る時に、なるべく白パンを履こうと心がけている。
いつの日か、誰かが、
「あなた、いつも白パン履いていません?」
と、尋ねてきたら、
「だって、ここ、神戸ですよ?」
私は毅然とした顔で言い放つだろう。
そして、ゆくゆくは誰かに、
「あの白パン野郎」
と、私を呼んでくれると嬉しい。

さあ、今日も白パンを履こう。