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あと何人の死刑が行われれば世界から死刑がなくなるだろうか。

忘れられないであろう1冊に出会った。
アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム『死刑囚』。

 本国スウェーデンには死刑はない。
1974年だ、スウェーデンが死刑を廃止したのは。
もう半世紀近い。
死刑とは前時代的、非人道的だという認識が浸透している。
だからもはや死刑の是非が議論されることすらない。
答えはとっくに出ているのだ。

▼ある冬の日、ジョンと名乗るカナダ籍の男がスウェーデンで暴力沙汰を起こして逮捕された。単純極まりない事件かと思われたが、ジョンの国籍が偽造されたものだと判明。さらに彼の正体はアメリカの死刑囚なのではないかという疑惑が浮かぶ。だがその囚人は、数年前に刑務所で命を落としたはずだった…

▼あと何人の死刑が行われれば世界から死刑がなくなるだろうか。
または確固たる意志を持った一個人が、死刑をなくす為に死を厭わない時、何ができるだろうか。加害者の死を望む被害者の家族には、合法的に何ができるだろうか。
そんな複雑な世界の仕組みを紐解きながら、人間の精神の葛藤、罪とは、罰とはなにかを考えさせるフィクションの完成度。こんな物語、忘れるわけがない。

▼思えば、アンデシュ・ルースルンドという作家に度肝を抜かれている。『熊と踊れ』の出会いから、『制裁』『ボックス21』『兄弟の血』すべて身体的にガツンとくる作品。圧倒的な構成力と、キリキリするようなスリルの文章で表現する臨場感にドップリと読者を引き込む。この『死刑囚』日曜の夜に読むべきではなかった。読後の余韻をどうすることもできずに苦む月曜の朝だった。
日本にはまだ死刑がある。これは国民の意思なのか、またはアメリカへの配慮なのか。うーん。

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