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スワロー亭のこと(12)初ライブ

スワロー亭の奥田はいろいろなかたちで音楽活動をしている。つい先日、2019年秋にリリースした奥田のアルバムからラジオで1曲が紹介されるということもあった。

奥田の音楽活動には年季が入っている。ライブを開催したりイベントに参加したりということを重ねてきているので、いきおいミュージシャンの友人知人も増える。

そのうちの一人に、野村誠さんがいる。かつてNHK教育テレビの「あいのて」という番組にレギュラー出演しておられたので、ご存知の方が多いかもしれない。

スワロー亭のオープン1年目だった2016年、その野村さんから「小布施へ遊びにいきたい」と連絡をいただいた。そこで相談の結果、スワロー亭でライブをやっていただくことになった。スワロー亭を始めるずいぶん前から奥田は「店でライブをやりたい」とずっといっていた。念願が早くもかなうこととなった。

仕事で印刷媒体のデザインを手がけている奥田がチラシをつくった。得意分野でもあるし、好きなのだろう。印刷物をつくるときの奥田ははりきっていて楽しそうだ。それが友人を招いてのライブ告知チラシであればなおさら。ほかの仕事を脇へ寄せてでも(笑)、練りに練ったチラシをつくる。

このときつくったチラシは、小布施町内約3000戸にむけて新聞に折込チラシを入れた。この一事をとっても、奥田の張り切りぶりがうかがえる。ただ、この折込チラシによってライブ開催を知って来てくださったお客様は、ざんねんながらゼロだった。

「折込チラシというものは、広く浅く情報を伝える種類のものであって、ターゲットが限定される今回のライブ告知のような用途にはあまり向いていないようだ。折込チラシを利用するなら、その部分は慎重に検討したほうがいい」と奥田。

6月21日、野村さん来訪。その日は電車で1時間ほどの温泉地で飲み会の予定が入っており、野村さんにも合流していただいた。

久しぶりの再会だったが、電車で移動中の二人は、ほとんど言葉を交わすことがなかった。あとでそのことを奥田に聞いてみたら、「話をしなくても、一緒にいるだけで、なんかええねん」というようなことをいっていた。不思議なコミュニケーションだと思ったが、二人はそれで居心地がいいらしい。

翌22日、町内に会場を借りて、野村さんによる共同作曲・即興演奏ワークショップを開催した。数多くのワークショップを開催してこられた野村さんのリードで、参加者のみなさんもおおいに楽しまれたようすだった。

そして6月23日。いよいよスワロー亭でのライブ。

ふだんは古本屋としてのみ運営している土間12畳・小上がり6畳、計18畳の空間に、ステージと観客席をつくるところからのスタート。古本屋だから当然なのだが、店内には書棚がたくさん並んでおり、そのうえ大型のテーブルもデンと鎮座している。動かせるものは動かしながら、いろいろ融通して、書棚の隙間になんとか15席くらいを用意した。

ステージは6畳の小上がりを使用。野村さんは鍵盤楽器をメインで演奏される方。いつも小上がりに置いて奥田がレジ台として使っている机をいったん撤去して、ピアノを中央に配したステージに。

ライブには、前日のワークショップに参加してくださった方々が何人か、小布施町内だけでなく隣町からも、ひきつづき足を運んでくださった。ライブのみ予約を入れてくださった方々も大勢いて、ありがたいことにこの日はほぼ満席となった。

野村さんと奥田とは20年来の交流があり、数々のライブやイベントをご一緒してきた。プライベートでも、野村さんが奥田宅を訪れて囲碁に熱中していた(じつは野村さんがやりたかったのは将棋だったが、奥田が囲碁しかできなかったらしい)時期があったと聞いている。近年は、それほど頻繁な行き来はないが、それでも数年に一度は野村さんのライブを観にいったり、野村さんを招いてライブを開催したりしている。

奥田と出会って間もないころ、野村さんはpou-fou(プーフー)というバンドをやっておられ、メジャーレーベルからデビューアルバム『BIRD CHASE』をリリースしていた(『BIRD CHASE』は、その存在を知った中島が10数年前に中古レコード店で入手した盤がうちにある。たいそういい作品だ)。今回のライブは、そのころの思い出話を奥田が聞き手となり、野村さんに話していただくところから始まった。

トークを挟みながら、即興演奏からスタート。次いで自作曲も。幼少期の思い出話に続いて、初めて作曲された作品の披露、というように、トークの話題に応じて演奏、そしてトーク、演奏、ときどきYoutubeで過去の野村さんの音楽活動を紹介、という流れ。

奥田に当日を振り返ってもらったところ、「このライブでは野村くんの音楽活動の全貌を伝えたいと思い、ああいう構成にしたが、内容を詰め込み過ぎてお客さんには未消化感があったかもしれない。打ち合わせなしで本番に臨んだため、野村くんを少々戸惑わせてしまった面もあった」と、やや反省モードながら、「野村くん単独の純粋なピアノライブを聴ける機会は、ありそうでなかなかない。貴重なライブになったと思うし、もちろん演奏はすべてよかった」といい添えていた。

ライブ中、話題が『BIRD CHASE』に及ぶと、同作収録の曲も披露。そのうちの1曲に、ピアノを肘打ちする作品があった。原曲に忠実に、壇上の野村さんはピアノを肘打ちで演奏された。

もともとステージとしてつくられたわけではない、ふつうの住宅の1室に過ぎなかった小上がりの床は、さほど衝撃に強くはない。そのうえ年数を重ねた中古住宅の床は、かすかに波打ってもいた。そこに据え置いたピアノは必ずしも安定的な状態にはない。そこに激しい肘打ち(笑)。ピアノの上に置いてあったステンドグラス風の照明器具が、演奏の衝撃によって落下した。

この数年前から写真を撮る楽しさに目覚めていた中島は、この日もウキウキとステージのようすをカメラに収めていた。ライブ終了後に画像を見返したら、照明器具が落下する瞬間がたまたま記録されていた。さいわい野村さんも照明器具も無事だったからいえることではあるが、それは場の熱を感じるなかなかいい景色だった。

アンコールも含めて約1時間、たっぷりと演奏を聴かせてくださった野村さん。観客のみなさんにもライブは好評で、野村さんのCDや著書も何点かお求めいただいた。

古本屋であるスワロー亭だが、音の響きも悪くはない。今後に向けて、可能性を感じられた初ライブだった。

ちなみに野村さんをお見送りした翌日というタイミングで、偶然にも「シカラムータ」の大熊ワタルさんが長野でのイベント出演ついでにスワロー亭へ立ち寄ってくださった。大熊さんには以前、小布施の「境内アート小布施×苗市」というイベントにご出演いただいたことがあり、奥田もすこしだけ共演の機会をいただいていたのだった。

やや蛇足ながら、中島は十数年前に奥田からシカラムータのファーストアルバム『シカラムータ』をある日突然聴かされ、そのオープニング曲でいきなりもっていかれ、のめり込んで、ほどなくその時点で入手可能なシカラムータの全アルバムを購入し聴きまくったシカラムータファン。「境内アート」にご出演いただいた折、同イベントの経費とのかねあいから大熊さんとパートナーのこぐれみわぞうさんにはうちに泊まっていただいたが、ミーハー乗り的に「信じがたい」そのような経験をその後もときどきすることになっていった(うちでの宿泊時、大熊さんは出演者として招かれている立場でありながら、早朝、朝食準備をする中島に「なにかお手伝いできることはありますか」と尋ねてこられた。シカラムータの音楽に対する信頼を深めた一場面だった)。

イベントでの販売用にご自身のバンド「シカラムータ」「ジンタらムータ」のCDを持ち歩いていらしたので、前日の野村さんのCDと同様にすかさず仕入れさせていただき、スワロー亭で販売することになった。

このような機会がひとつずつ重なって、スワロー亭では何人かのミュージシャンの方々のCDを扱うようになっていく。仕入れ経路が独特(ご本人から直接仕入れたものがほとんど)なので、近隣のCD屋さんにはないラインナップだと思う。これもこの店の特徴のひとつといえばそういえるかもしれない。

(燕游舎・中島)

<野村さん即興演奏動画>

<野村さんpou-fouナンバーを演奏>

https://www.youtube.com/watch?v=ZvSmRux5H3Y



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