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【歴史】夫婦漫才ミスワカナ・玉松一郎~ナニワkawaii早世の天才~

趣旨(あいさつ)

演芸の歴史を掘り下げルーツを探り
現代にはない笑いを楽しむ。

『ぼくら、なにを笑ってきたんすかね』

みなさん、おげんきでしょうか?
今日は1931年結成の漫才師ミスワカナ・玉松一郎さんについてお話します。

ブレークのきっかけ

2段階のブレークがある
【1】
1937年(昭和12年)広島にいたワカナと一郎を、吉本興業の林正之助が誘って同社へ入社させます。
そのときにコンビ名を「ミスワカナ・玉松一郎」とします。
吉本興業に入る前からもともと芸があり、二人は各地の旅先(九州や広島)の寄席で漫才を披露していました。
そこでさらに多くの仕事(寄席やラジオ・慰問)を経験してキャリアも人気も獲得しました。
ですが、さらに大きな波が訪れます。

【2】
他の事務所(新興キネマ)から引き抜きを受けるのです。
契約金は600万円。加えて、毎月30万円の月給を保証されて移籍となります。

コンビの関係性

駆け落ち夫婦
一郎とワカナはもともと許されぬ恋仲で、別れさせられていた。
一郎が大阪・玉造で映画伴奏をしていたころ、ワカナも偶然玉造で漫才の修行中。
2人はタバコ店でばったり再会したのをきっかけに駆け落ち。
九州へと移る汽車の中で、コンビの結成を決めました。

ネタのテイスト

ミュージカル風漫才とでもいいましょうか

Youtube - 大阪演芸のレジェンド作家
  • ワカナさんの超一流芸「方言コピー」が軸
    (5か所以上の方言を自在に使いこなします。)

  • ワカナさんのその他の芸(しゃべりの合間に抜群の歌謡とタップダンス)

  • 楽士、玉松一郎さんのアコーディオン(しゃべりの時はテンポ感抜群のツッコミをしつつ、合間のワカナ芸に合わせたBGMを担当)

  • なにより、ワカナさんの芸人らしからぬ可愛らしさと毒を含んだネタ
    (ギャップがスター性のかたまり。)

ネタの抜粋

※夫婦漫才だけど、他人同士が漫才してるという設定で演じられています。※


/*** ネタ:主人がやかましい> ***/

<1>

ワ「あたし朝は5時に起きますの」

玉「おお、芸人には珍しいですな」

ワ「お便所行ってまた寝るんですのよ♡」

玉「ほな小便しに行ってるんじゃないですか」


<2>

ワ「主人からも言われます。妻というのは夫に対して言葉を崩してはいけない。
常、平生(つね、へいぜい)から言葉を慎みなさい」

玉「なかなか教育がおありですな」

ワ「その代わり他人には偉そうに言え」

玉「反対やで君」

ワ「こう言わんと主人がやかましいんですよ~」

ワカナの代表的フレーズ


<3>

ワ「朝は主人に牛乳5合
たまご十個にとろろにスープ
鯛でも目の下五尺ぐらい
片身はお作りで、裏っかわはお焼きもの
アラはみなお吸い物ですのよ」

玉「いや、アラってそんな大きな鯛炊く鍋あるんですか」

ワ「ええ風呂の窯が空いてますもの」

玉「おたく、風呂窯でおつゆ沸かすの?」

ワ「ええ。今日はお風呂焚いて明日はお吸い物」

玉「汚ったないですな!」

ワ「いつ頃食べにこられます?」

玉「いや遠慮しときます」

ワ「遠慮せんでもよろしい。」

玉「結構です」


/*** ネタ:放浪記 ***/

<1>

ワ「生まれたのは京都ですけど、育ちは広島県じゃがの~」

玉「中国地方ですか」

ワ「ちいたああそびんきいさらええ
本人がまた遠慮なけのうあんたが
遠慮しんさらんでもええよ
ありゃあの、うちかたのおかかが言うとっちゃったよ
一郎さんちいともきちゃあにゃあが、あっりゃいなげなひとじゃの本人も
どうしちゃったんか
きたらええまた来て鼻でもゆっくりひろげんさりゃ」


<2>

ワ「名古屋では 『あのね』を『あのにゃあし』といいます」

玉「あっちの方はクセがありますな」

ワ「あのにゃあし。
お隣からぼたもちふたつもろうてにゃあし。
ひとつ兄さまが食べてにゃあし。
ひとつおっかさんが食べてにゃあし。
あとなんにもにゃあし。」

玉「あれもこれもありませんな」

結局なにが楽しいのか(〆)

本来、伝統芸能は残っている映像・音声では当時の空気や面白さが伝わりにくいものです。
ところがミスワカナ・玉松一郎さんの漫才は比較的、時代を超えてその可笑しさ・楽しさが伝わってきます。
ネタの内容が当時に限定されているわけでもありませんし、テンポや間などの伝える技術が芸能史上指折り数えるくらいにすばらしいものです。
(レジェンド芸人・作家がそれを認めている証言があるのです。)

夫婦しゃべくり漫才の定型、「嫁>夫」の構図を通常通りこなしつつ、二人のサブの芸がいいタイミングで挟みこまれ、それが他のコンビとの差となって付加価値を生みます。
やりとりの内容を聴けば漫才。心地よさの部分をとれば音楽。

実はワカナさんほとんど字を読めないらしく、作家にネタをかいてもらってもあんまり理解できません。
それを一郎さんが読み、音としてワカナさんがあらためて吸収・アレンジ。
そうすると最後にはハイレベルな芸となって完成し、何事もなく観客へと還元されるんです。

すげえとしか言いようがありませんわ。

是非、Youtubeなどでミスワカナ・玉松一郎さんの漫才を聴いて、その圧倒的音の笑いを楽しんでください。

今日はここまで。

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