マガジンのカバー画像

拾遺詩編

21
運営しているクリエイター

2015年8月の記事一覧

列車を見送らなければならない

細すぎる月に照らされてきた半世紀の川が増水をくりかえしている
詩人がいない土地なので贈り主となって雨を降らせ
振り返らない夏の背中をきみと見送った

子どもたちのように増水した川をみている
きみの存在がわたしの存在だった八月の川をみている
そこからのぞむ夏空にもトンボは舞い
舞うことに罪を着せる風がそのときも吹いている

ホームではあらゆる列車を見送らなければならない
愛する罪を問いながら
きみは

もっとみる

その寒気ゆえに

汚れた歩道から汚れた歩道へ
廃墟の落とす影を踏みながらきみと歩いた
見えるだろうか、まだ名のない色の空と
まだ聴かれたことのない音が混じる週末の街角
身を寄せたいつもの希望とは無関係に
絵のような公園は封鎖されて
古い寒暖計が最低気温を更新した

薄汚れた歩道には
いつまでも回りやまない独楽を見つめる少年がひとりたたずんでいる
記憶されてしまうことからすべてを守るために
空を切り取って窓とすれば

もっとみる

きみの胸にかかる橋

時々島がぼくたちの海に
まるで半音階の響きとなっている
愛を救う光学となって踊るきみはゆれている
ただ言葉でしかない詩を望めば
鳥が群れている内海に音楽は終り
怖くない眠りが待っている

時々島が半透明の毛布をかぶり
ぼくたちのすぐ横で眠りにおちる
砂浜のように波に反応しながらきみは海流からすべりおち
見つからない貝となって窓を閉じる
何かをさがすために窓を閉じる

いつか終わる波だけが打ち寄せて

もっとみる

七月の傷だらけの背中が遠ざかっていく

風があるとしてもぼくたちを吹いている風ではない
濡れまいとして傘を開いただれかに降りかかる雨があるとしても
ぼくたちに降る雨ではない

やがてきみの姿となる光に照らされて夜の破片を踏んでいる
きみの不在はまだ深い井戸の底にあって
ぼくが振りかえるときにみる暗がりの正体を知ることはない

遠ざかるものを見送るにはまだ早い
ぼくたちはまだ近づいているさなかだ
きみの言葉は口にされる前にすでにぼくたちふ

もっとみる