列車を見送らなければならない

細すぎる月に照らされてきた半世紀の川が増水をくりかえしている
詩人がいない土地なので贈り主となって雨を降らせ
振り返らない夏の背中をきみと見送った

子どもたちのように増水した川をみている
きみの存在がわたしの存在だった八月の川をみている
そこからのぞむ夏空にもトンボは舞い
舞うことに罪を着せる風がそのときも吹いている

ホームではあらゆる列車を見送らなければならない
愛する罪を問いながら
きみは色とりどりの夜を開く鍵を握りしめている
壁から外された絵がまだわたしたちの壁にかかっている
季節の隙間で季節について語り始める声を警笛がかき消していく

滅びない愛のために川はあふれようとする
細すぎる月に照らされたその川をわたる列車を見送ろうとして
わたしはホームに立とうとしている

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