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拾遺詩編

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2015年6月の記事一覧

眠りにつく半島

別れというよりもその亀裂から数週間を
地は傾き、言葉の終りから水際まで、きみも脱ぐ浜へ
帰り急いだ、急いではいけないのに

半島にかかる半月
ぼくらは死者との約束に傷つき、声もなく喉がかれる
足跡を追って、もうどこにもない足跡を記憶に焼きつけながら追って
なにもかもが正しく失われてゆく眠りへと
一枚の上着を脱いでいく

植物が規則的に祈る夕暮れ
きみの創造者が手を掲げればその手を愛し
人々の上空で

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眠りにつく地平線

方位と呼べるものがぼくの季節だった冬を指し
川と呼べるものが
きみの書いた詩の次の一行をいまもながれる
回り道のなかで過去を訪ね
だれとも無関係に広がる曇天の下
きみとの年月を地図としてあるいた

羊歯のかげには
去年なくしたテニスボールが落ちていて
「風は窓を通り抜けたいだけで
 カーテンを揺らしたいわけではなかった」
地下を吹き抜ける風に吹かれ
次の一行を探しにいこうとおもって眠りに落ちた

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愛の半分は秋にうしなう

行き止まりの朝から戻ってきて
坂の下で静止するボールのなかから夜空を仰ぐものがある
行き止まりの部屋の扉に貼ってある地図に迷いながら
散歩に出たきり帰らない犬をさがすときの夜だけがひろがる
離れればなくなる愛がかなしいという女のためにボールがころがる
舞い上がると夜空に捕獲されてしまう女のためにボールがころがる
歩いているうちに渡ってしまった川を見失っている

眠りにつく記憶

春は葬られる草の名を宛先にまなざしを開く
一対の疲労として
追憶の淵から打ち寄せる波などに身をゆだねる
損なわれながら聞くことにも
知ることにもついに慣れてしまいながら
草の語りがぼくらのまま枯れるのだ

セロファンの空がカッターナイフで
かんたんに引き裂かれる音を
聞く側の耳は知っていた
ときどきしか聞こえないきみの声は
いつも別れようとする女の論理を語っている

屋根、廃屋の眼は覚めている

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仮眠しかない丘から舞い上がる

飲み忘れた薬をもったひととなって商店街を縦断し
永遠に落下するもの、という言葉にくりかえしとらえられる仮眠しかない
冷えきった海水を汲んだ水筒をさかさにして
理由のない海を背にすると理由のない潮が背後から満ちてくる

仮眠しかない丘から舞い上がる土埃のように移動する午後しかない
途中で折れる文章では伝えられないものを追うために砂浜しかない

あいまいな川が流れ込んでいる
なにも言えない夜が過ぎ去っ

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あてがないときは終点しかない

点にしか見えない星を追った最終バスの窓によりかかってみると
どこも見えなくなった風景にすぎない
ありふれたかなしみの夜空になってしまった過去がどれほど危険だろうと
拒否さえしなければ
見えない風景にすぎない夜がひろがっている

船と岸のあいだに置かれたテーブルにコップがふたつ並べられているような恋人たちが揺れながらもたれあっている
じぶんの影におびえる停留所をいくつも通過して
バスは、あてがないと

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