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落下の解剖学を観た(ネタバレです)

 予告編をみて以前から筆者が関心を持っていた映画なのだが、なんだか暗そうな雰囲気を感じて腰が引けていた。アメリカアカデミー賞で脚本賞を受賞したと聞き、これは観なくてはと、遅ればせながら映画館に行った。

あらすじ

 雪の山荘。夫婦と幼い息子3人で暮らす一家の夫が転落死する。果たして事故か自殺か妻による殺人か、というサスペンス物。
 妻は有名作家であるため、裁判はマスコミの好奇の目にさらされる。様々な状況証拠が出される中、刑事や判事、弁護士などの判断が分かれ、それぞれの見解による解釈が行われる。唯一の証人である息子は視覚障害者である上にまだ10歳と幼い。映画の大半は法廷の場面だ。証拠物件に映像が無いため、スクリーンに映し出される夫婦の生活や犯行場面は、証拠から憶測される再現である。
 最後に息子の証言で裁判は終わる。事件から一年が経ち、少年はしっかりとした証言が出来るまでに成長していたのだ。彼は両親への愛情で心が揺れ動く中、彼が正しいと信じる証言をする。そして判決が下される。

気になったこと

1 それぞれの視点
 一つの事件が、見る者の主観で何通りに解釈できてしまうという脚本は黒沢明監督の名作「羅生門」を彷彿とさせる。リスペクト?オマージュ?そういった本にも賞が貰えるんだなあ、と思った。別にいいんですけどね。(偉そうで、すみません。黒沢ファンなのでつい)
2 画期的な夫婦げんか
 夫が録音していた夫婦げんかの音声が証拠として法廷で流されたのだが、その内容が凄い。
(夫)妻にも家事をして欲しい。
(妻)平等なんておかしい。(鼻でせせら笑う)
(夫)浮気したのが耐えられない。
(妻)セックスレスだったから、気分を晴らしたかった。それに同じ相手とは何度も寝てないし。(彼女はバイセクシャル)
(夫)息子の教育も任せきりで、大変。
(妻)自分が教えたいと言ったんじゃないの。そのためにあなたの実家そばに来たんだし。嫌ならやめればいい。
(夫)自分の時間が無い。小説が書けない。
(妻)そんなの言い訳だ。私だって小説が忙しい。
といった内容が延々と続く。そして最後には暴力。音だけだが、夫のすすり泣きやうめき声が聞こえるところから判断すると、どうやら妻の方が優勢のようだ。
 驚いた!筆者の偏見と思う人もいるかもしれないが、この会話は大抵の日本の夫婦なら夫と妻が逆のパターンだと思う。会話の端々から伝わってくる、誰が稼いで食わせてやってると思ってるんだ?というパワハラの匂い。日本ではこのくそパワハラ旦那が~となるところが、映画では鼻持ちならないパワハラくそ妻が~、となっている。
 フランスではこれは珍しくないのだろうか。こんな所までが男女平等なのだろうか。フランスの事は全然分らないのだが、もしそうならなんと画期的な!と思う。この会話に脚本賞の価値があるな、と思った。(あくまで日本のおばさんとしての意見)フランスではこの夫婦関係について、どう受け取られているのだろうか。
3 少年の成長
 映画を観ている時にはあまり気にしていなかったのだが、購入したパンフレットを読むと、この映画は少年の成長物語でもある、という評論家の文があった。言われてみれば、確かにそうだなと思う。事件の時には泣くばかりだった子供が、一年後に行われた裁判では証言台に立ってしっかりと話している。
 少年が両親間の問題を知り、苦悩しつつシャワーを浴びるシーンはまさに大人。その場面を観て、ふと日本映画「誰も知らない」の柳楽優弥さんのことを思い出した。似たシーンがあったのだが。これもオマージュなのか?と思った。考えすぎだろうか?
4 多様な言語
 妻はドイツ人、夫はフランス人、会話はフランス語と英語。妻はフランス語より英語が得意なので証言は両方の言語で話し、通訳が付く。
 夫婦の意思疎通は充分だったのかな?裁判で妻の証言は本人の意図した通りに伝わっているのかな?と疑問に思った。外国で裁かれるということの難しさを感じた。ヨーロッパ社会の複雑さが表現されていたと思う。


感想

 結論が出ずモヤッとした感じだったので、あれでいいの?という腑に落ちない感じがしました。息子は本当に納得しているのかな?と彼の将来が心配になりました。私の心証では、妻が絶対にやったでしょ、と思うのに。手は下してないかもしれないけど、暴言で夫を追い詰めて自殺させたのではないかと。
とにかくサンドラ(妻)が怖い、映画です。舞台にしたら、夫婦げんかのシーンがド迫力なのではないかな、と思ったのでした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました(^o^)




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