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【再現性あり?】USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか? V字回復をもたらしたヒットの法則【書評】


今回は書評です。
エンタテインメントの関わるビジネスマンは必携の書だと思います。


著者紹介

著者は今は有名になられた、株式会社刀CEO森岡毅さんです。
元USJ、その前はP&Gでマーケターとしてのキャリアを磨いてこられた方です。

これまでずっとエンタメ業界は、センスや直観、経験がものを言う世界
その中にあって「数学マーケティング」の考え方を持ち込み、実際に成果を上げたのが、この森岡毅さんです。

本書では、エンタメ業界に関わる人達なら業種は違えど「あるある」と思えるエピソードが紹介されています。

例えば、森岡さんが就任当初、古参社員たちは「USJは映画のテーマパークだ。そこから外れて成功するはずがない」という頑強な意見に対して「“映画だけ”のテーマパークは不必要に狭すぎる。これからは世界最高のエンターテイメントを集めた『セレクトショップ』としてブランドを強固に創っていくことにします!」と宣言する場面があります。

皆さんの周りにも、「もっともらしい根拠の、もっともらしい意見」が新しいアイディアを潰してしまう、ということはありませんか?エンタメ業界はこれが非常に多い業界だと感じます。

他業界の方は意外に思われるかもしれませんが、そうなのです。
なんとなく常に新しいことや楽しいコトを考えてやっているイメージがあると思われがちですが、新しいことをスタートするときに、必ずといっていいほどこれに似た場面に遭遇します。

エンタメ業界というのは、新しいことに取り組む意欲のある若い人が非常に多く、いくつもアイディアが飛び出す、新しいアイディアが生まれやすい環境であることは確かです。
そして、彼らが新しいこと会社で提案して、通そうとした時、上司や幹部へ稟議を回します。

上司たちは、それらのアイディアが大抵の場合、形にならないことを経験的によく知っているのです。なぜなら、いくつもチャレンジして、失敗しまくって、手痛い経験をしてきたからです。
そこでコケたら自身も失うし、金銭的にも損失を被るし、信用も無くすし…という経験をたくさんしてきているのです。

しかし、その上司たちは、自分たちはその経験を糧に、自分たち独自のスタイルを確立して、「自分だけの勝ちパターン」をよく知っているのです。

だから「自分の言う通りやればうまくいく、だからそうしてほしい!」と思っています。
会社に勤めている場合であれば、若手の失敗の責任を取るのがイヤ、ということもあるでしょうし、純粋に親心から先回りして助けてしまう、つまり「新しいことにチャレンジする前に、まずは言われたことをしっかりこなして基礎を身に付けたらどうだ?」となってしまうのです。

エンタメ業界では、流行は移ろいやすく、確実であり続けるものなど何もない、ということをベテランであるほどよく知っています。

そして、新しいことに挑戦するには体力が要るので、かつてはバリバリに活躍して出世した人でも、今も活躍こそしているものの、若い時ほどリスクを取りにくくなっており、ましてや若い人にリスクを取らせるなど、なかなか出来ないものなのです。

ハリーポッターエリア建設に向けて

そんな中、USJの立て直しのために森岡さんが行なったことはまず「USJを立て直すためには何が必要か?」を明確にすることでした。
その柱が「ハリーポッターエリアの建設」です。

アメリカのオーランドで既にプロトタイプを見ていた森岡さんは「コレはいける!」と確信してしました。しかし、そのためには450億という多額の設備投資が必要でした。
当時のUSJには450億もの投資に踏み切れるほどの体力はありませんでした。

ハリーポッターエリアさえオープン出来れば、必ず逆転できる。そう思っていた森岡さんにとって「建設すべきか否か」という問題ではなく「建設するまでに必要なキャッシュを確保できるか」が問題でした。

そこで「出来るだけ設備投資費用を押さえながら、来場者数を増やすことが出来るか」という命題に取り組みます。

数学マーケティングという武器

森岡さんは、センスとかデザインといったものに対する能力が著しく欠如しているという自覚があるそうです。
人が見ていいと思うものと、自分の感覚とはかけ離れていることも多いそうで、感覚的なもので判断することは避けてきたそうです。

そんな森岡さんが得意な分野がありました。それが数学です。
数学の知識を使って勝率の高い方法を採択する、ということでP&Gで実績を上げてきたそうです。
マーケティングは統計なども扱うため、数学の考え方がフィットしやすいようです。

実際森岡さんは、ハリーポッターエリアをオープンすれば、どれくらい伸ばすことが出来るか、という需要予測を立てます。いくつかのパターンでシミュレーションした結果、目標とする数字が出てきます。その数値を達成できれば必ず投資は必ず回収できると踏みます。

こうした数字を使って社内をどんどんと説得していき、目標を定めて努力してきた奮闘の日々が体験者ならではのリアルな文章で綴られています。

この時のストレスを想像しながら読んでいくと、エンタメ業界の方々ならおそらく共感できると思います(笑)。「ここで失敗したら、すさまじい額の赤字になってしまう」というプレッシャーや、思いがけず大成功して動員数が伸びた喜びといった仕事の醍醐味など、思わず一緒に働いたような気にすらさせてくれます。

ロジカルに、効率的に、でも…

最終的に、私たちはハリーポッターのエリアが建設されて、それによってUSJがV字回復したことを知っています。その裏で、どのような苦労があり、どのような道筋を経て、そこにたどり着いたのかを知ることが出来る、読み物としても非常に面白い本です。

数学マーティングの手法や、考え方など、非常にロジカルなものは土台にしてはいるのですが、「USJが勝ち進んできたのは、少ない資源をどこに集めれば勝てるのかを、世界中の誰よりも考えたから」という結論になっています。

数学を用いることで再現性の高いノウハウがあることを期待されることもありそうですが、あくまで数学はツールであり、最後は「死ぬほど考えて、誰よりも働く」というのが、最も「再現性の高いノウハウ」ということになりそうです。

そんなことを言えば身も蓋もないのですが、手当たり次第に時間や資源を使うのではなく、最も少ない資源で、最も効率よく結果を出すためには、どこで戦うべきか、をあぶりだす方法として、数学マーティングが有効、そしてそれを実行するための知恵や行動には、真剣に誠実に向き合う、本書ではその姿がありありと表現されていて、読んでいて勇気をもらえます。

充実した仕事

書いてあることがそのまま自分の仕事に役に立つ、というよりは組織人として、組織で働くことのメリットや、ストレス、ジレンマに共感する一方で、森岡さんのように死ぬ気で打ち込んだ仕事に対する充実感を感じることができる本だと思います。

自分で大きな組織を率いるとか、金額の大きな仕事をする、といった経験はなくても、自分から能動的に取り組んだ小さな改善が回りの人に感謝されたり、よく考えて作って提案したルールが会社の標準になった、とかそういった経験ならある、という人は多いのではないでしょうか。

当事者として、真剣に考えて、行動したことは、必ず誰かの役に立つものだと思います。
机上の空論ではなく、仕事に関わる利害関係者として、少しでも良い仕事をしたい、とか気持ちよく仕事をしたい、と思って取り組めば、最初は小さくても必ずプラスの成果は出るものと思いますし、それを誰かが見てくれているものだと思います。

当事者として取り組む、これが全ての仕事に共通して言える成功の秘訣のような気がします。そして、ずっとそうし続けていられる仕事が一番自分に合っている仕事、充実した仕事になるのだと思います。

今は不況のエンタメ業界ですが、エンタメに絶望したくありませんし、そういう業界であってほしくないと思います。
エンタテインメントはなくてはならないものだと思いますし、必ずまた良い時代が来ることを信じています。

勿論、時代と共にその在り方もビジネスの仕方も変わると思います。
それでも人は楽しむことをやめないと思います。

そういうものを提供できる業界の一員として、そこで働くサラリーマンには元気で楽しく働き続けてほしいですし、辞めてほしくないと思います。

その為には、業界全体がよりよく働くことを目指さなければなりませんし、新しい楽しみを提供していかなければなりません。

本書からは、そうした勇気や働く楽しみを教えてもらった気がします。
この文章も、そうしたエンタメ業界ではたらくサラリーマンが、楽しく読んでくれることを目指して、そして楽しく働くことを目指して、色んな本の紹介や、自分の考えなんかも発信していければと思います。

今日も最後まで読んで頂きありがとうございました!

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