NEW MAP(DANIEL YERGIN, PENGUIN BOOKS)を読み解く。-第十一講。

本欄は、ピュリッツァー賞受賞作家DANIEL YERGIN氏の”NEW MAP”(ペーパーバック版)を読み解きつつポスト冷戦後の世界構造と、現代日本に求められるエネルギー政策の提言に結び付ける試みである。

少し最近のニュースに関する、CHAPTER46 "THE CHANGING MIX"を取り上げてみたい。

ここ数年、日本においてもこのエネルギーミックスは議論の対象であった。さらに、混乱に拍車をかけたのが、ロシアによるウクライナ侵攻である。それまでも、カーボンニュートラルや脱炭素だと言うが、現実性のない画餅に過ぎず、屋上屋を重ねることになるのではないかという意見はかなり根強くあった。
風力や太陽光が、既存のエネルギーの代替となるほどの能力を持たない出力不安定な電源であるという点、また、最近では太陽光パネルの製造過程に人権侵害的な労働があるという点も指摘されるに至っていること、その他、様々な事件が報道されるに至り、「風力・太陽光と言ったエネルギーが、既存のベースロード電源に代替することは無い。少なくとも再エネ大量導入の先に「バラ色の未来」があると言う観方はほぼ消えたと考えて良いと思う。YERGINも指摘するPeak Oil論、すなわち、石油資源は枯渇していくという
論説は少なくとも非在来型資源の技術のブレイクスルーによって、すっかり
息をひそめることなった。
自身の感想で恐縮だが、本章を読んでいると、YERGIN自身も、未来予測に
やや難儀している様子が滲み出ているように思える。世界中でエネルギーの需要が高まると同時にインフラ投資も増加する。それでいて、二酸化炭素を減らす「クリーン」な社会が求められているという矛盾を感じているようにも読み取れる。

YERGIN曰く、コロナ前は、現在の"地図”はまっすぐで単調であった。ある程度、方向性や、傾向などを、はっきりと指し示すことができた。(読者の間に不満はあっても)しかしながらパンデミックの結果、突如として未踏の分断が現れたのである。ある予想は同様であったし、また別の予想はその分断を加速させ、また別のものは時間切れになってしまった。

気候変動は国際的な現象だが、自国の事情に依存する形で、その変化に呼応している。エネルギー戦略家である、Atull Aryaの言葉を借りれば、エネルギー源の追加を意味する。"風力や太陽光と言った既存の成長していくエネルギーに伴って、エネルギー転換は進んでいく"と述べている。
米国では、新規の石炭火力発電所は建設されておらず、稼働中の石炭火力
発電所の数は減少している。世界的に見れば、その絵姿は異なっている。
アジアではより効率的な石炭火力の建設もあり、持続的に、石炭の消費量
は増加している。石炭は減少しているが、中国・インドと言う世界の二大大国では未だ主力電源であり、エネルギーそのものとして重要なばかりではなく、エネルギー安全保障のために重要なのである。

10年強前までは、"peak oil"すなわち"end of oil"の時代は近く、世界中で
石油製品が枯渇すると言われていた。1859年にColonel Drake井戸において最初の石油が発見されて以来、その間の経済後退、恐慌、価格高騰にもかかわらず、世界の需要は持続的に伸びている。
石油の消費量は増加してきた一方で、石油の消費地図は変わってきた。何十年もの間、需要は、北米、西ヨーロッパ、日本あるいはオーストラリア等の工業国に集中していた。第三世界での割合は相対的に小さかったのである。

もはやそのような状況ではない。2013年以降、新たに出現した市場とその他の途上国における石油の消費量は伝統的な工業国の国々より大きい。

石油や天然ガスは、石化製品の原料でもあり化学製品やプラスチックが製造される。

プラスチックの問題は、主として主要国において問題になっているのではない。米国で生産されるプラスチックの廃棄量は全体の1%にも満たない。90%の河川由来のプラスチック汚染は、適切に管理されてさえいれば、プラスチックの廃棄量を劇的に減らすことが出来る。プラスチックのバッグや、ストローは最も可視的な利用である。
さらにコロナ危機を通して明らかになったのは、布のバッグの過剰な利用よりもプラスチック袋のほうが健康上のメリットが存在すると言う事実である。

ワシントンD.C.ではプラスチックのストローを用いる、”ストローカップ” がレストランで供されていたが、今ではそれらは禁止されている。これは”循環型経済”("Circular Economy")の一部とみられており、埋め立てされる代わりにその製品が再利用、リサイクル、そして再生成されると言われている。

プラスチックの偏在性と、万能性は、現代世界の構成物の一つである。

それらはプラスチックの配管や太陽光、風力やブレード、あるいは携帯電話のケースの中まで至る所に見られる。

また。石化産業は近代の医療産業にも本質的な部分で用いられていると、米国衛生医学雑誌("American Journal of Public Health")の中にも述べられて居る。プラスチックは近代医療ケアシステムの中でも中心的な役割を果たしている。
"手術室を見たまえ。衛生手袋、チューブ、静脈液のバッグ、機器、心臓病の患者に挿入するステントがある。さらに90%の医薬品の原料、あるいは、試薬は石化製品から作られている。”
コロナウイルスのパンデミックの問題となったN95フェイスマスクは石化原料から作られている。
石化需要はGDPの成長より早く、時々二倍となった。その事実は需要が伸びて続けている事を示している。

”石油・ガス企業”は”パリ協定後”の世界に適応しようとしている。巨大な、国際的な石油会社はより資源が豊富で、より、炭素量が低い燃料である天然ガスを重視しようとしている。またいくつかの企業は天然ガスの伸び続ける需要と、低炭素な点に着目し、"ガス・石油産業”産業と呼称している。徐々にガス由来の競争力を強めている。

世界のLNG消費量は石油生産量の二倍にまで成長することが予想されている。
ビジネスにおけるLNG分野の割合は、国際的なLNGの市場の中で、より成長するとされる。2050年までに、天然ガスは今日よりも60%の高い水準に至ると試算されている。2050年までにLNG分野は現在の60%の水準になると言われている。

幾つかの企業は、いかなる看板であろうと、電力、エネルギー供給、さらに新技術を保有する会社、スタートアップ、低炭素エネルギー分野を拡大しようとしている。その目的は、より効率的に、より環境対応圧力に合致するように、あるいは投資家や規制の要求が、炭素の問題を解決し、将来の輸送問題やデジタル経済、オプションへの適合、さらに知財権の保有の一部となっている。
それらはエネルギー転換への投資、電気自動車、水素、風力や、太陽光迄をすべて適合する形で投資しようとしている。特に炭素の補足には重心が置かれている。

"電気自動車は、石油の時代の終わりではない”と言うのは、IEAの最高責任者
ファティ・ピロル氏である。世界中の車が電気自動車となっても石油需要は
伸び続けるであろう、と。

シェールは数十年もの間、米国経済の主要な事業分野となってきた。米国の製造業にとって重要な市場であり続けてきた。低価格のガスは顧客や事業に利益をもたらし続け、米国における新しい投資金額である、数兆円の投資を刺激し続けている。それは競争力のある米国天然ガス市場の進歩の主要な要素の一つとなってきた。そして勿論、シェールオイルは、近年の最も動的な要素の一つだあることが証明されてきた。

米国は天然ガスの豊かさを享受し続けているが、シェールオイルの慌ただしい需要増がすでに終わろうとしている姿が明らかになっている。米国は主たる石油生産者の一つであり続け、生産量の水準はコロナウイルス前の水準に
まですでに戻りつつあるが、その危機はプロセスを破壊し、さらに投資家との関係において、主要な挑戦の一つになりつつある。

消費者側はどうか?消費者は結局のところ製品の使用者である。もし、明日、石油の生産を止めることがあっても、消費の傾向は変化することはない。

人々は未だ車を運転するであろうし、その他の会社はガスタンクを石油で満たす準備を始めるだろう。炭素税が無い状況下で、あるいは重要なインセンティブや、ガソリン税が無い状況下において、一体、どこの誰がよりグリーンなエネルギー -例えばEVや燃料電池を買うとか、よりグリーンだが高価なエネルギーといったものに対して-などというものに対してお金を払うだろう?

石油の輸出国において、エネルギー市場はどう変化しつつあるのか?
マーケットは循環で変化している。それらはいつも、2020年には起きなかったのだが、石油の輸出企業はその不確実性に直面している。

経験が示しているのは過剰な依存から多様化に向かう事がいかに難しいかと言う事を証明している。

再生可能エネルギーは鉱物の輸出国に、その多くはグローバルサウスと呼ばれる南側諸国(global South)に対して、非常に大きな経済的機会を生み出す。これらの国々は石油の輸出国と同様の問題を提起するだろう。
鉱物需要の増加は、環境的な側面や労働条件などの問題により強い光を当てることになるだろう。そして、需要が増加するにつれて、鉱物から消費者へのより信頼できるサプライチェーンを保障することになろう。世界のより多きな覇権競争の世界において、国際化の流れやサプライチェーンの再考、地政学は新しいエネルギーミックス一部となり、現在のエネルギーミックス
の一つであり続ける。

本稿は以上。


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