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文系/理系の区分をいまだに有効だと考える人々

文系、理系っていう学問区分が好きだねー、一部の日本人は。特に「文系」を非科学的で「バカだ」と呼びたい向きにとって、この「文系/理系」という区分は実に重要なものみたいだ。「理系」はともかくとして、「文系」って何よ? 文系をきちんと定義できますか? そもそもこんな区分は日本独自のもので、(烏賀陽弘道氏も動画で言っているように)そんな区分が問題になるのは大学受験をする日本の高校生までです。しかもそれはまったく便宜的な区分に過ぎず、世界に目を向ければ何の普遍性もないものです。

「文系は非サイエンス(科学に非ざるもの)だ」と主張したいのかもしれないですが、では経済学部は「文系」なのですか? 「文系/理系」などの区分が有効だと思っているあなたは、社会学や政治学も「文系」だと思っているのでしょうか? そのような区分は実に旧弊で、国際的な基準によれば何の妥当性もないですね。

経済学は近代以降、複雑な数学的な操作が必要な学問であることはよく知られたことだし、頭で哲学的思惟を積み上げるようなものでは、もはやないし、社会学はsocial scienceであり、政治学はpolitical scienceです。宗教学や比較人類学だって、研究の中で哲学的思惟や想像力豊かな洞察は極めて重要な役割を果たしますが、ヒトを扱う立派な人文科学(cultural science)です。歴史学は文系の権化のようなものと考える向きは今でもあるかもしませんが、考古学や文献学などと結びついた極めて実証的・科学的なアプローチが重要な学問です。「文系」を非科学的と馬鹿にしたい連中は、考古学や文献学を非科学であると決めつけたいのでしょうか?

では「法学はどうか」と言うでしょうか? 法学は極めて論理性の高い学問で、また文献学的に過去を参照するものでもあり、その態度は極めて科学的です。非科学的情緒が尊ばれる学問分野ではありません。

どうも「文系/理系」の区別にこだわる連中は、この人文科学に相当する学問分野を「文系」と呼びたいらしいが、それらがすでに科学的様相を呈するものであることについて無知であることを告白しているようなものです。

物理学や数学、化学などの自然科学だけが「科学」の名前に相応しく、歴史学や経済学のような人文科学は依然として「非科学」のラベリングをしたい人たちは、それによって何か自分が優位に立てると思っているのでしょうか?

それでも依然として「いやいや、文系というものは存在する」という主張に拘泥したい人は、例えば「国語や文学などを忘れている」と言うかもしれません。文学は立派な文系であろうと言うわけです。ところが文学 (literature)は、特に創作に関わる場合は音楽や美術と同じ区分に含まれるもので、scienceの区分にそもそも属さないものです。むしろliberal artsの一分野であると理解するべきで、こうした活動に従事している人は人口比で言えばマイノリティーであって、「文系」を馬鹿にする連中が相手にしている大多数の非論理的とラベリングしたい人々のグループと必ずしも重ならない種類の人々です。

それとも日本語の「文系」と分類される分野の学問の大部分が人文科学であることを承知した上で、自然科学との関係において劣勢だと主張したいのでしょうか? もしそうだとしたら科学的研究の対象がヒトやヒトの社会、もしくはその歴史に光を当てようという学問分野を自然科学と比べて劣っている理由を理路整然と説明する責任があると思います。


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