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やることになっちゃったから、やっちゃったら、うまくいっちゃった、になるといいね    / あきちゃん  

4年前、カウンセリングセンターで「逃げたぁぁい!」叫んだものだ。

ひきこもりを脱出して農家になると言って、ハッタリかまして、
約300坪、オリンピックの競技用プール50mよりひろい畑を
借りてしまったのだ。

借りてからと言うもの、どうしようが止まらない。
畑の脇で綺麗に咲く桜なんかきれいになんて見えない。
わたしを監視してるんじゃないかと言うくらい、大きな環境の変化に、
いや 変化させたことにおののき、叫んでいた。

「やることになっちゃった。どうしよう。
 やるって言っちゃった。どうしよう。」

今までは、ありとあらゆる社会への挑戦を今じゃない。とか、
あなたには無理だとか、なんなら施設を紹介されてきたわたしが、
農業委員に直談判して、畑をやることになってしまったのだ。

だってやるって言っちゃったから。

でも、それを言ったのには、ずーっと抱えてきた劣等感が
陰にはあった。

30にもなって働いたこともない。
働いてる友達とは違う世界で生きている遠い人みたいに思えて、
会うのもはばかられる。
平日に外に出るのも辛かった。

「働いていない」

社会の一員になりたい
社会に認められたい

それだけだった。

もしかしたら農業じゃなくてもよかったのかも知れない。
でも、その農業委員さんは震えながら「野菜が好きだ。」と伝える
わたしの話に耳を傾け、ひきこもっていたことは、
わたしの中だけの話にしておく、と畑を用意してくれた。

その時カウンセラーは、覚悟を決めたかのように笑顔で言った。

「やることになっちゃったから、やっちゃったらうまくいっちゃった
になるといいね!」

あれから4年。
野菜を植えるたび怖い。
畑が広がる度怖い。
いつまでも身震いする春は消えない。

しかし、病院や家の外で働くことに喜ばなくなったことが嬉しい。

友達と軽い調子でどう最近ー?と連絡を取り合えることが嬉しい。

当たり前ではなかったことが、当たり前になっていくことに
涙が溢れる。

気持ちは今でも逃げることもある。
でも、現実は立ち向かう。

逃げながら逃げないから なんてカッコつけたり、
自分の意見を販売店さんに主張できる機会も増えた。

農業委員さんは、師匠となり、農業のことや農業界の文化を
教えてくれつつ、カラオケに2人で行くまでになった。

少しずつ少しずつ、ちびりながら、ビビりながら畑に行っていた
あの頃はどんどん思い出となって、
桜に笑いかける季節を楽しみにしている自分がいる。

なんて、しあわせな怖さだろう。
なんて、嬉しい当たり前だろう。

そんなことを書き綴りながら、安行寒桜を心で眺める白い朝。


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