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アサヤンVol.14 青空 球児・好児「ゲロッパ!漫才道場」

「感動出来ます!」はカッコ悪い  byテリー伊藤

かつて私の師匠でもあるテリー伊藤さんは会議でこう言った。
 「いいかぁ、自分たちで作ったモノ(VTR)を『感動出来ます!』って言うなよ!考えてもみろよ。女の子を口説く時によぉ。『おれー、チンポデカいから、付き合ってくれ!』ってそんなこと言うやついないだろうー。」と独自のチンポ理論から、いかに作り手自身が自身の作品に対し「感動出来ます!」(褒める)と言うことがかっこ悪いのか、説いてくれた。

 今回のアサヤン、私も「感動出来ます!」と言うつもりはない。しかし、「感動」とは別の「感慨深さ」をこれほど感じる回は、「アサヤン」というレベルではなく、ライブという形態において人生初であった。出演者の一人である高須Dは、本番終了後、こうつぶやいた。「スゲーもの見ちゃったな。」と。

 「感慨深さ」をVTRに盛り込むなら一つの手法がある。しかし、これはそう簡単にマネは出来ない。何故なら、そこには「時の流れ」を感じる要素を盛り込まないと表現出来ないからだ。(分かりやすく言えば、老舗ラーメン屋の閉店、電車の旧型車の引退、娘の結婚式、弁当を作り続ける親のCMなど。)奇しくも、2021年7月7日、七夕となったこの日、「平成の怪物・松坂投手の引退」のニュースが駆け巡った。一方、形容する言葉が見つからない程のセンセーショナルな活躍を続けるエンゼルスの「大谷翔平選手の日米通算50勝」をいう出来事が重なった。私は放送作家として知っている。「人々は時の流れに弱い」という普遍的な感情を。もう一度、言うが簡単に作れるものではない。

 あえてもう一つ実例を出したい。イギリスが誇る大英博物館で私自身、作品の前に立ち尽くしたモノがある。

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イギリスが誇る大英博物館

 その中で展示されるのは「ゆりかごから墓場」までと題された、人が一生の間に飲む薬が展示されている。

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 作品の細かい解説をするつもりはないが、今回のアサヤン、最大の見どころは「漫才師の一生」をわずか3時間足らずで感じる、そんな前代未聞のライブではないだろうか。(少なくとも私は前例を知らない。)

博士の親心から全ては始まった。

 今回のアサヤンライブ、事の経緯はTAP所属の19歳の若手芸人・ガラパゴスを漫才協会に入れて、芸人としての本当の実力を身に付けて欲しいという親心である。それはまた、師匠であるビートたけしさんしかり、浅草キッドさんしかり、「浅草のフランス座」での修業で娑婆っ気を抜き、舞台に立つことで芸は磨かれる、という思いだ。それはまたお笑い養成所を持ちながら、常に「ライブの場」を持つ吉本興業とは別の虎の穴論でもある。しかし、現実はそうはならず、ガラパゴスは解散した。一部の経緯は以前のNoteにも記した。(配信を見た後にでも、読んでみてください。)

 実はこのガラパゴス解散において、Facebookを通じて博士からこんなコメントをもらった。

10代のすることだから、プレッシャーをかけるほどオトナが過度に期待してもならないし、結果に失望もすることはないのだとは思う。ただ仕事を進めていると、その後始末がどれほど大変かは彼らにはわからない。それが十代なのだと思うね。

 博士の心労を察すると、いたたまれない思いがこみ上げてくる。すでにライブに向けて現場は動いている。ガラパゴスの新たなる門出の舞台から、違う見どころを用意せざるを得なかった。ちなみにこのライブのベースにはメインゲストである青空球児・好児師匠へのリスペクトの思いが多分に含まれている。博士は今年の2月15日の日記で師匠のライブを観て、こう評している。

 青空球児・好児師匠の顔を潰すわけにもいかず、漫才協会の副会長でもあるナイツ・塙さんが漫才の解説も急遽、決まった。「言い訳 関東芸人ではなぜM-1で勝てないか」で、漫才における慧眼ぶりが評価されているのは言うまでもない。博士との漫才論、芸人論のぶつけ合いも見どころの一つになった。

 しかし、ライブに先駆け、ひとつの問題がくすぶっていた。同じくTAP所属の若手芸人「ドルフィンソング」の扱いをどうすべきなのか?ZOOMによる緊急会議が開かれた。「普通にネタを見せるべきか?それとも、トリにして漫才協会入りの是非を問うべきか?」私も含め9名ほどだろうか、一組の若手漫才師の立ち位置を巡り、大人たちが侃々諤々の意見を交わす。詳細は明かさないが、議論の内容を言い換えると「人生の選択に、親が口を挟むべきか?どうか?」「本人の気持ちはどうなのか?」ということでもあった。紆余曲折あり、今回のライブで若手のドルフィンソングがトリを務めることになる。

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 奇妙礼太郎トラベルスイング楽団の「ドバドバドバン」と共に、ライブが開演する。高須Dの「(横山)やすし・やすし」のそっくりショー演出からのたけし100人隊が生まれた貴重なエピソード話から、高田文夫先生が外部理事に就任した「漫才協会が今、熱い!」話が披露される。

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「高田笑学校」から「博士笑学校」へ時は流れる

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漫才解説だけでも面白い・ナイツ塙

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二人の漫才論は見ものだ!

 そしていよいよネタ披露へ。トップバッターを務めるのはエルカブキ。「誰が分かるんだよっ!」を決め台詞にした漫才。ナイツ・塙さん評とは!

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マセキの狂犬「エルカブキ」デロリアン林(左)とエル上田(右) 

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無駄にデカい「KITAJIMA」ボケ名嶋真(左)ツッコミ北見寛明

 ツッコミの北見は元吉本興業所属(かつて「ベイビーギャング」というコンビで活躍。元相方は現EXITのりんたろー。)かつて塙さんとの因縁話が浮上する、、、。3組目は「U字工事」

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親とも言える博士の目の前で、抜群の安定感ある笑いを届ける!

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「博士あっての俺たち!」U字工事・福田

「ほたるゲンジ」の完コピ芸は圧巻!

 U字工事は浅草お兄さん会の出身。栃木弁を全面に出すスタイルへのアドバイスは博士だった。安定したしゃべりで爆笑をさらう。世代を超えて通用するであろうそのしゃべくりに思わず、笑うべえ!4組目は「ほたるゲンジ」青空球児・好児師匠の現在のたどりついた芸の前に、元々の球児・好児師匠のネタとはどうだったのか?二人が完全コピーに挑む。

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「ほたるゲンジ」桐畑トール(左、普段はツッコミ)無法松(右)

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「ゲロゲーロ」桐畑トールと、「今夜は三下とは呼ばせない」不法松

 「ほたるゲンジ」のステージを見るのは今回が初であったが、見事なまでの「完コピ」は恐れ入った。漫才師としての地肩の強さを見せつけ、塙さんも爆笑の芸であった。そして博士が「デビットリンチ」とも評した球児・好児師匠のネタへ。

芸歴50年!とにかくカッコいい球児・好児師匠!!

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漫才師とは、歳を重ねてもこうもカッコいいのか!

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「マヂカルラブリーは漫才か?」は無駄な議論だ。これを見るがいい!

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青空球児・好児師匠の雄姿がここに!(本当は立ってるだけですごいが芸はもっとすごい!)

 博士の言う「デビットリンチ」的なところはどんなものか?と構えてはいたが、いざ始まるとお二人の声量、活舌の良さがひたすら際立って見えた。言い換えれば、「作り込まれたボケ」なのか「天然ボケ(加齢によるもの)」か、で言えば極上に計算されつくして、限りなく天然にも見えてしまうほどの圧巻さがあった。年老いても尚、いやこの歳だからたどり着ける境地、芸があることを身を以って教えてくれたと言っていいだろう。同時に「とにかくかっこいい!」「とにかく面白い!」というシンプルな思いが駆け巡る。

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漫才師の「ゆりかごから墓場」まで

今回のアサヤンはチラシを見る限りでは「世代を超えた漫才師がアサヤンというステージで相まみえる!」といった表現になるだろう。しかし、こんな凡庸な言葉では済まされない味わいがある。U字工事で笑い、ほたるゲンジで「芸」の醍醐味を味わい、そして今80を迎えようとする芸人のたどり着いた芸は、「齢を重ねたこそ、見えてくる風景」のような味わいと凄みがあった。ライブを全体の俯瞰で見た時に、笑いと興奮の質が変わるのだ!!こんなライブが、こんなステージがあるのか!!「ほたるゲンジ」もスゴいが「球児・好児師匠」は輪を掛けてスゴイ!!私は今回のライブで「漫才師の一生」をひとつのステージで味わっている気がしてならなかった。売れっ子になるために技を磨く若手芸人、熟練の技を披露する中堅芸人、それを見守る博士と塙さん。さらには極みを見せる球児・好児師匠。そして、今まさに「漫才協会」への扉を叩こうとする「ドルフィンソング」。

 まるで漫才師の「ゆりかごから墓場」までを見るかのようだ。一つ一つの面白さは、保証するがトータルで見た時の感慨深さは、上手く表現できないほどの心の震えをもたらした。壮大なる博士のライブ作品の傑作とも言えるだろう。

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ドルフィンソング、球児・好児師匠の前でネタを披露

 ライブの延長戦、TAPの社長でもあるつまみ枝豆さんも登場し、「ドルフィンソング」を漫才協会で鍛えてくださいと仁義を貫くシーンもあった。

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 私の興奮がどれほど、伝わるのか?今回のアサヤンライブを観てると、極上の映画を見ている気分にもなる。笑いでありながら、ドキュメントでもある。漫才師を通した人間物語が染みるのだ。さあ、配信チケットはこちらだ。

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 蛇足になるが、、、
 この日、会場となる阿佐ヶ谷ロフトAに足を運ぶと談笑する高須Dと無法松の姿があった。私の姿を見つけた高須Dが近寄り、声を掛けてくれた。

高須「島津、この間のZOOM会議あったよなあ。」
島津「ありましたねえ。どうかしたんですか?」
高須「それがよお、俺は気づかなかったんだけど、無法松がさあ、全体の画面あるだろ。あれでよお、時折、ドルフィンの佐野が姿を消すんだけど、ズルズルって音がするんだって。で、戻ってくると口元を拭いてるんだって、言うのよ。」
島津「ほお。」
高須「でよお、無法松がさあ、これだけみんなが真剣に話をしてる最中に(当事者の本人は)うどんかラーメンか分かんないけど、呑気に食ってることに気づいたらしくてさ。」
島津「それは気づかなかったなあ。」
高須「でよお、無法松が会議終わりに電話して。『佐野、みんな(お前らのために)真剣に話をしてる最中に何、うどんなんか食ってんだよ!』って叱ったらしいのよ。」
島津「ほお、それでどうなったんですか!!」
高須「でさあ、佐野君がさ『うどんじゃないです。』って言うわけ。で無法松が『うどんでもラーメンでもいいよ。ズルズルやってだろっ!』って言ったら、『違います。涙が止まらなくなって拭いてました。』って。」

 この話を聞いて爆笑した。ドルフィンソングにはいずれ凱旋ライブの時が来るのだろうか。親の心、子知らずではないようだ。2021年7月7日、七夕の出来事である。博士の短冊の思いは叶うだろうか。ドルフィン、がんばれ!

 いつも素敵な写真をありがとうございます。
 写真提供:中山友美 利根川亘
      Instagram:tomomi.photography
      Facebook :tomomi.photo

次回のアサヤンは・・・近田春夫さんが再び登場!しかもテーマは「ジャニーズ」!

私も、しこしこ動画で「世界」を相手に戦ってます。よかったらぜひ!
 テーマは「夏場に食べたい料理」シンガポールの主婦からは「フルーツの生春巻き」魚大好きShokoさんからは「入梅いわし」「マナガツオ」を消化してくれています。

執筆者:島津秀泰(放送作家)
     Twitter:@shimazujaoriya
     Instagram:hideyasushimazu
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