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栗の神様に出会いました

6月9-11日、2泊3日かけて、栗の生産現場の視察に石川県に行ってきました。その中で、石川県能登にて、出会った栗の栽培をしている“松尾様”について、今回は紹介します。

■松尾栗園 松尾和広様
愛知県岩倉市出身。2005年8月より石川県輪島市にて栗栽培の実習を積み、能登栗の味にほれ込み、脱サラして能登栗農家になる。2006年2月独立。

独立と同時に能登町金山地区の栗園(2.5ヘクタール)を、2009年1月より能登町当目地区の栗園(3ヘクタール)を、2010年5月より金山地区のまた別の栗園(0.8ヘクタール)を栽培・経営。現在では、熟成栗を三つ星レストランにも卸す高品質の栗を栽培。


○300日間、船酔いで毎日吐き続け、海から山へ

高校卒業後、名古屋市の流通会社に就職。兄弟の学費支払のため建築職人に転職。25歳で自分のための人生を探し求めて上京し、編集プロダクションでの修行を経て、なぜか女性情報誌の出版社に入社。編集部に2年所属した後、3年間営業に。この頃に、都会での消費者生活から田舎での生産者生活に強い憧れを抱くようになり、漁師を目指して北海道えりも町でタコ釣り漁船に10ヶ月挑戦。300日間、船酔いで毎日吐き続ける日々…。いろんなことに挑戦した結果、能登栗農家になることを決意しました。

○なぜ栗なのか?なぜ能登なのか?

「自分で育てたものは自分で責任を持って売りたい」
甘いもの好きだから果樹が前提だけど、名産地でブランド化されたフルーツを育てるのは組織的体制も合わない。2年くらい研修しないと独立できないのも嫌。そんなことを考えているうちに、なんと3ヶ月で独立できる能登の栗園があいたという情報が!早速農園を引き取ったのだが2005年8月、草刈りをして、9.10月に収穫して、あっという間に独立してしまったそうです。

収穫直前の栗の樹

○剪定って夏にもおこなうの?

剪定は、普通冬季だけ行うそうだが、松尾栗園は夏季も行う。1つの栗に対する葉の数を30-40枚程度にし、必要最低限の枝にすることで、果実に栄養まわします。そうすることで、光合成によりデンプンを多く含んだ栗を栽培することができるそうです。剪定では、樹の高さは4m~5mにして、やや木と木の間が狭かったりするため葉脈になぞらえる設計。それぞれの角度を40度にすることで葉が重なることなく、光合成を最大化でき糖度を12-13度に高めることができるのだとか。日照時間をいかに高めるかで栗の生産は大幅に変化するとのことです。

葉脈になおられた設計

○5年間も肥料をあげてない土壌で大丈夫?

果樹は草生栽培。無肥料で草を生やして刈って餌にして有機物を出すことがいい土壌づくりのコツ。除草剤を散布すると草が生えてこないので、土に肥料を蒔くしかなくなってしまうのです。栗の適正ペーパー5.5が理想。土壌プラスイオンの最適黄金比は、カルシウム6.マグネシウム2カリウム1。5年無肥料なので、窒素だけは入れる必要がありそうだが、草生栽培なので、刈り草、剪定枝で足りる設計だそうです。

○日本一冷蔵庫に早く入れる農家の収穫

収穫時が糖度MAXなので、翌日1日放置するだけでも糖度は落ちてしまう。つまり、とにかく早く拾う必要がある。2日目には、糖度が落ちて浮グリになってしまう。なぜかというと、呼吸速度と温度に関係があり、温度15℃以上になると急速に呼吸がはやまる。呼吸をすることで、糖が減る(呼吸は糖を分解してエネルギーにする)のです。

○バナナよりも糖度がある「熟成栗」とは?

当初は、5年間はリピートがつかず、ノウハウも管理もザル状態だったそう。原因を調べていくと、生栗熟成状態で約40日目位に糖度のピークを迎えて、60日目あたりから糖度が落ちることが分かった。そこで、55日以内に必ず栗を焼くことを徹底しているそうです。すると冷凍することで糖度が落ちることなくバナナよりも糖度が高い甘い栗になったそうです。現在、松尾さんの農園では、生栗を冷蔵保存して、糖度を通常の2~3倍に高めるという。

○重さで選果する!?

果実は体積ではなく、なんと重さで管理しているという。焼き栗の焼き時間に関わるので、M・L・2L・3Lと4段階にて選果している。重さは手ではかるということで一同驚きました。全員選果の職人として、朝収穫した栗を昼までに選果を完了するとのことでスピード仕事。
収穫時は、全国から常時10名以上スタッフを集めて、自宅に住み込みで働く。体力があり、視力が良い事がとても重要なので、若いスタッフが多いという。

○寝ている間も、赤子のように栗を見守る冷蔵庫

表面マイナス3℃、中心マイナス1℃が絶対。しかし、冷蔵庫内を均一に保つのはむずかしいとのことでした。1番遠いところを基準値に合わせて、ファン近くは毛布をかけたり、場所を入れ替えたりと、とても苦労がかかるという。味のムラをなくすため、温度変化があるだけで水がでてカビになったりと過去には大変な経験もしたという。現在では、27個の温度計を5分更新にてスマホで管理しているそうです。

○栗は生き物。美味しく焼き上げるポイント

焼くと糖度は36度となり、スイーツの領域の甘さとなる。焼きのポイントは5つあるとのことでした。①栗のサイズ②栗の釜への投入量③投入時の釜の温度④焼き栗機の火力⑤加圧の組み合わせ。焼きはマニュアル化できないので、日々丁寧に見ながら行っているという。加熱を加えることで、ベータアミラーゼ酵素が働き甘くなるそうです。

最後に

今回、視察に伺って、松尾さんは、18年間の経験から独自の理論を展開して、最高の栗を作るという想いと努力を惜しまない姿勢に感動しました。また、「お腹を満たすのではなく、ココロを満たしたい。」という理念から、松尾栗園でしか作れない栗を作っていました。ひとがやらないことをやる。突き抜けたいなら、誰もやらない圧倒的な努力をすることにより、誰よりも自分に厳しくできる1%の人になることができるそうです。私達も、松尾さんのように、遠州・和栗プロジェクトを世界に発信できるよう進んでいきたいと思います。
これからも、日本全国栗農園の旅は続きます。ありがとうございました。

例えるなら、このヒト

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