結婚なんてやってられるか!~離婚から生まれた名曲、チャイコフスキーの交響曲第4番~
名曲が生まれるタイミングについて
クラシック音楽の作曲家が名曲を書くタイミングというのは、作曲家の身の上に何かしら感情を揺さぶられる出来事が起こった時である、という説を見かけたことがあります。
例えば、女性と恋におちた時。ベートーヴェンなら「エリーゼのために」なんかがそうでしょう。ベルリオーズは自身の失恋の経験をもとに「幻想交響曲」を書きました。エルガーは、妻へのプロポーズとして「愛の挨拶」を作曲しています。
身近な人の死がきっかけになることもあります。ムソルグスキーは、数少ない理解者であった親友の死後、その親友の遺作展を見て、その絵から得た印象と、亡き友人への哀惜の念を込めて「展覧会の絵」を短期間のうちに書きあげました。
チャイコフスキーの評価を決定づけた名曲
さて、8月のアンサンブルSAKURAの演奏会では、演奏会後半のメインに、チャイコフスキーの交響曲第4番をとりあげます。この曲は、5番、6番の交響曲とともに「チャイコフスキーの後期交響曲」とも呼ばれ、1番~3番の交響曲よりも圧倒的に演奏される機会が多く、多くの方々に親しまれています。ロシア国外でも高く評価され、チャイコフスキーの名声を不動のものにした作品です。
この曲は、彼のほかの交響曲とは冒頭の様子が全く異なります。チャイコフスキーの交響曲はどの曲も静かに始まりますが、4番だけは例外です。第1楽章の冒頭はホルン、ファゴットによる猛々しい「ff」のファンファーレで始まり、聴く人を作品の世界に否応なく引きずり込みます。
冒頭から非常に強い力を持つこの作品の誕生のきっかけは、もはや事故と言ってもいい、泥沼化した彼の離婚(別居)騒動でした。
結婚してくれないなら死んでやる!!無理強いされた結婚
ある日、チャイコフスキーのもとに、教え子のアントニーナから告白の手紙が届きます。その手紙には「結婚してくれないと自殺する!」という、衝撃的な文言が書かれていました。
常軌を逸した内容の手紙を寄越す、気分の浮き沈みが激しくて、結婚してからの苦労が目に見えている相手からの告白を、チャイコフスキーは当然断ります。
しかし、アントニーナは一度断られたくらいではへこたれず、猛烈なアプローチを敢行。チャイコフスキーはついに根負けして結婚してしまいます。チャイコフスキーは同性愛者だったとも言われており、世間からのあらぬ噂話を退けるために結婚したとも言われています。
チャイコフスキーの結婚生活は苦労の連続でした。義理の家族は夫婦同士、親子同士、さらには姉妹同士の仲が非常に悪く、母親が特定の子供を嫌っているという状況に、家族仲がいい家庭で育ったチャイコフスキーは大変な衝撃を受けます。常に険悪な空気の義実家に対して、婿として折り合いをつけなければならないチャイコフスキーは苦しい立場に置かれました。
そもそもチャイコフスキー自身の気持ちを無視して始まったこの結婚生活が上手くいくはずもなく、1か月ほどで破綻してしまいます。
離婚を認めないアントニーナとのやり取りがチャイコフスキーの心身へ与えたダメージは相当なもので、チャイコフスキーは凍てつくモスクワの川に飛び込み自殺を図りますが、失敗。衰弱しきった彼をなんとか回復させようとしたチャイコフスキーの身内たちは、ロシアから遠くはなれた温暖なイタリアに彼を滞在させ、頑なに離婚を認めないアントニーナから物理的にチャイコフスキーを引き離しました。そこからおよそ7年ほど、彼はヨーロッパ各地や、兄弟の家を転々としながら過ごします。
立ちはだかる運命、結婚生活の現実、離婚を切り出され怒り狂いモンスターと化す妻…
ホルンとファゴットによる強烈なファンファーレから始まるのが第1楽章です。このファンファーレは1楽章だけでなく4楽章にも登場し、抗いがたい運命、立ちはだかる壁として要所要所で現れます。
チャイコフスキーの身に置き換えるならば、息苦しくて仕方がない義理実家とのやり取り、過干渉な妻からの圧力にまみれた、苦しい結婚生活といったところでしょう。
あるいは、離婚を突きつけられ、離婚は認めないぞと怒り狂い、挙げ句の果てには別居後の生活費の負担を迫るモンスターと化した妻、と捉えてもいいかもしれません。この結婚とほぼ時期を同じくして、パトロンであるメック夫人からの経済援助が始まっており、それを知っていたであろうアントニーナがチャイコフスキーの財力に目を付けないわけがありません。
曲の中でもチャイコフスキーは精神を保つべく現実逃避を試みますが、中々うまくはいきません。冒頭のファンファーレが再度登場し、チャイコフスキーは辛い現実に幾度と無く引き戻されます。
第1楽章の最後は徐々に加速しながら楽章の最後に向かっていきますが、冒頭のファンファーレが金管楽器の全奏でさらにパワーアップして(音量も上がり、音価(長さ)も長くなって登場します。ヴァイオリンを中心とする弦楽器が、何かから逃げ出すかのように崩れ落ち、最後は管楽器による強烈なヘ短調の和音で閉じられます。
目線を外さないよう徐々に間合いを空けていき、十分な距離をとったその瞬間に全速力で逃げる…。チャイコフスキーがアントニーナのもとから逃げ出すときも、こんな様子だったのかもしれません。
楽章の全域に渡って繰り広げられる劇的な音楽は、まるでバレエの舞台を見ているかのような錯覚に陥ります。最後の管楽器の強烈な和音など、舞台の幕を閉じながらバレリーナが舞台袖に捌けて行き、場面が次の幕へと移る、そんなイメージです。
とにかく聴く者の耳をつかんで離さない強いエネルギーに満ちた第1楽章、ぜひ楽しんでいただければと思います。第2楽章以降については、次週以降記事にします。
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アンサンブルSAKURA第41回定期演奏会≪オーケストラの休日≫
日時:2024/08/18(日)13:00開場14:00開演
会場:IMAホール(都営大江戸線光ケ丘駅前)
指揮:高石治
入場料:1,000円(当日券あります)
曲目:
軽騎兵序曲/スッペ
パノラマ(眠れる森の美女)/チャイコフスキー
葦笛の踊り(クルミ割り人形)/チャイコフスキー
情景(白鳥の湖)/チャイコフスキー
威風堂々第1番/エルガー
「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲/マスカーニ
禿山の一夜/ムソルグスキー
交響曲第4番/チャイコフスキー
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