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【少しネタバレ】話題の映画「グッドバイ、バッドマカジンズ」を観てきた話。

映画館で観る映画は家で観る映画とは違う。

音の迫力や絵の大きさなど、雰囲気が違うのはもちろんのこと。
一番は映画に集中させるという強制力が一番大きいと考える。
まあまあなスマホ中毒であるこの世の中で約2時間、スマホの画面を一切見ないというレアな状況は、一種のデジタルデトックスなのかもしれない。

もちろん作品が面白いことは大事で。
つまらない、難しい映画だとあっという間に夢の中に旅立ってしまうなんて経験もしている。
その点では、先日観てきた「グッドバイ、バッドマカジンズ」は観終わった後に飲んだ水が体の隅々に染み渡るくらい、観ることに集中した作品だった。

※多少のネタバレが入りますので、自己責任でおねがいしゃす。


・どんな映画?

簡単にあらすじを言うと、

東京オリンピック招致の影響により、外国人観光客への”配慮”で大手コンビニでエロ本の販売がなくなった。
そんな状況の中で新卒入社したサブカル好き女子である主人公を中心に徐々に厳しくなっていくエロ本業界の物語。

私は出版社での仕事経験はなく、ドラマなどのフィクションの世界でしか知らない。しかし、これから社会人生活が始まる主人公のスタートは稀に見るワーストクラスのスタートであることは間違いない。
今の世の中では淘汰されつつあるパワハラ、セクハラ当たり前のブラックな環境の中で、最初は大丈夫なのか?と心配になっていたが徐々に順応していく主人公の姿にはたくましさがあった。

「エロ本を作れる編集者になればどんな雑誌でも作れるようになるよ」

何が彼女の心の支えになったかは定かではないが、面接時に女編集者に言われたこの言葉が最後まで印象に残っていた。
しかし、この映画は主人公の成長物語ではない。
あくまでも東京オリンピックの歓喜の中で苦しんだ人たちの物語である。


・「エロ」だからと侮るな、作り手側の真っ直ぐな想い

映画の面白いところはいくつかあるが、個人的に面白かったのは「作り手の苦悩と葛藤」だと思っている。

作品を作るにあたり、完成といえる基準はどこにあるのだろうか。
作者それぞれにあると思うが商業的に言えば発売し、且つ売れることで一つの完成となる。(もちろんこれが全てとは言わない)
極端な話で言うと内容が面白い、つまらないは関係ない。要は売れるか、売れないかである。

題材が「エロ」であるため、いつの時代も需要はある。
しかし、敬遠されるテーマであることは間違いない。
女性の裸さえ出しておけば売れるわけではないし、作品の中でも言っていたが、「どうやったらエロいと思われるか」が重要になる。
主人公は女性であり、なんとなく羅列したキャッチコピーを女編集者に見せるのだが、全然エロくないと一蹴されてしまうシーンがある。
男性ではないため、わからないと諦めるわけでもなく、想像力を働かせるためにとことん脳みそを絞って苦悩する姿は、長い勤務時間、会社に泊まりながらも必死でこなしている姿はまさにクリエイターだった。

物語上、主人公の成長を見せるために必要であり、こうやって社会人になっていくんだなと、こういうバトル漫画の修行回のようなシーンはなんでか面白いですよね。
主人公も初めは上司から適当に指示されたことをなんとかこなしていたが、自分に後輩ができると全く同じことをしていたり、その中でもわからないことは聞いてと配慮していた姿は自分が教える時はそういう配慮をしてあげようと思ったのかもしれない。そういう人間臭さが垣間見えたのも、面白い要素だった。

そんながむしゃらに仕事をする中で、新しい雑誌を作ったりなどさらなる奮闘をしていくのだが、大手コンビニという最大の販路を失い、立ち見防止のテープが貼られて中身を見てもらうこともできず、更には先程も言ったとおり煙たがれるジャンルであることから他ジャンルの商業誌よりも大きなハンデがある中で、どうやったら読者に読んでもらえるかを常に考え続けている姿がもはや感動すら覚えた。

・限界の向こう側まで行くと人は強くなれる…はず。

物語は徐々にであるが状況が変わってくる。
もちろん、悪い方向にだ。
そんな悪くなっている中で止めの一撃を刺すように大きなトラブルが発生し物語の大きな展開を迎える。

より如実になっていく現実に抗うかの様に、主人公も踏ん張り続けていた。
ここまで来ると、維持で齧りついているわけではなく、もはや仕事ではなく生活の一部になっていた。
更には顕になった上司の不正に対して、完全に他人事になっている反応からも明らかだった。
すでに行き着くところまで行ってしまっており、自分ではブレーキの掛けられない車でガソリンが尽きるまで走り続ける様になっているのは誰が見ても明らかだった。

「やれば終わる、それが仕事」

社会人になってこんなにもグサッときた言葉はなかった気がする。
行き着く先はプツッと糸の切れた人形のように、倒れる主人公であった…
ある程度の予想も付いていたし、むしろここからどうなるのかがきになるところ。中途半端に終わらせなかったのは個人的には良かった。

この後の展開での感想は正直なところよくわからなかった。
完全に自分の理解力の問題。しかし、各々が苦しい中で本音を語っている姿に「あー、この人達もしっかり芯があったんだな」ということは理解できた。

それはやはり造り手としての想い。
どんなジャンルでも面白い物を作りたいという気持ちだ。
その気持ちがあったからこそ、どんな手を使ってもやろうとしている姿や、現実と天秤にかけることができず、終わってしまった姿もあった。
どんな姿でも、それは現実に近いフィクションで描かれており、ドキュメンタリーを観終わった感覚に近い。

主人公は自分がやってきた2年間をしっかりと振り返り、編集者として新しい道を踏み出すのだが、、、、

いや、この新人強いわ!!!

今の若い子にしてはなかなかに強さを発揮していて、これもある意味リアルなのかなと思いながら、、、映画は幕を降ろした…


・総括

一緒に見ていた人たちが少しずつ映画館から出ていく姿を横目にゆっくり上着を着ながら帰り支度を済ませる。
全く飲んでいなかった水を一口飲むと、冒頭に書いた通り、水が体の隅々に
行き渡っていった。

私は映画評論家ではないし、普段から映画をよく観ているわけではないので月並みなことしか言えないが、面白いか面白くないかで言えば、間違いなく面白かった。

映画を見て少し時間が経ち、この感想を書いているが、書きながらも印象に残っているシーンはたくさんある。
これまで観てきた映画の中には箸にも棒にもかからない映画もあったが、「グッドバイ、バッドマカジンズ」に関しては、印象に残ったシーンがたくさんあった。

元々は1週間しか上映しない予定の映画が満席になり、その人気から徐々に上映数が増え、現在は全国行脚中とのこと。
この記事を書いている今も私が観に行った映画館は来週で上映終了。

もしお住まいの場所から行ける範囲の映画館で上映していたら、騙されたと思って一度観に行ってほしい。


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