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ぶどうの世界 ①ぶどうの実はどのように作られるか

皆さんはぶどうは好きだろうか?

私は大好きだ

以前、私は幸運にもぶどうの栽培に関わることができたので、そのときの経験をもとに、ぶどうについて解説してみたい。

第1回の今回は、ぶどうの実のでき方について。

ぶどうの花

果実というものは、基本的に花が咲いた後にできるものである。
いちじくは無花果ではないか?という疑問を持つ人もいるかもしれないが、いちじくの実はそれ自体が花の集合体であり、内側に花があるので見えないだけである。

ぶどうの房も、当然のことながら果実であるので、元々は花の房である。
しかし、ぶどうの花といってイメージがつく人がどれだけいるだろうか?
ぶどうの花は一般にはあまり馴染みのない存在であると思う。

ではぶどうの花とは、どのような見た目をしているのか。写真を見てみよう。

写真中央の房に付いている緑色の粒の一つ一つがぶどうの花である。花から出ている黄色い先端を持つ糸状のものがおしべである。

改めて見るとあまりにも地味である。これではぶどうの花の知名度が低くても仕方がない面がある。

花の一粒一粒がどのくらいの大きさかを示すため、手の写った写真も載せておく。この花の一粒がぶどうの一粒となる。

ぶどうゆえの作業

普通の果物なら、結実以降の作業は余分な実(ぶどうでいう房)を落としたり、虫や病気がつくことを防ぐため袋をかぶせたりすることくらいであり、一番作業量が多いのは収穫のときである。しかし、ぶどうの場合はここに作業量のピークがある。

さっきのぶどうの花の写真を見ると、花が100個近くついていると思われる。しかし、売られているぶどう、とくに「巨峰」「ピオーネ」のような大粒のぶどうには、これほどたくさんの粒はついていない。ピオーネならば30〜40粒くらいだろうか。

実は、ぶどうとして育てるのは赤丸で示した先端部分だけで、あとは開花前に取り除いてしまうのだ。

だから、ぶどう農家にとっては花の房は小さいほうがよい。
上の写真のようなブロッコリー級の花がつくと、余計な花を取り除くのも大変である。

必要な分だけ花を残したら、開花、結実を待つ。種なしぶどうを作りたい場合は花をジベレリン(植物ホルモンの一種)水溶液に浸す処理を行う。ジベレリン処理は基本的に2回行うが、品種によっては1回でよい。

ジベレリン処理の様子
農家によっては処理したかどうかをわかりやすくするため、水溶液に食用色素を入れて着色することもある。

さて、結実すれば、待っているだけでぶどうができるかというと、そういうわけでもない。
まだ粒が多すぎるのだ。
ぶどうの粒を大きく育てるためには、粒の周りに十分なスペースが必要になる。
そのスペースを確保するため、ある程度粒が育った段階で余分な粒を切り取る必要がある。

切り取る前

切り取った後
この写真を撮った頃は初心者だったので、そんなに上手くはない

切り取ったら袋をかぶせて、十分に糖度が上がったら収穫する。

収穫したぶどう
下に敷かれているのがぶどうが入っていた紙袋

このように、ぶどうの栽培では「1房が多数の粒で構成される」という特性ゆえに「粒の数を調整する」という他の果物にない作業が発生する。
キログラム単価で見るとぶどうはりんごやみかんに比べ高い傾向にあるが、それは栽培にかかる労働量の差によるところも大きいのだ。

余談 : 野生のぶどうはどうしていたか

栽培品種のぶどうの場合、この記事で書いたような手厚い作業をすることでぶどうをならせることができる。
何もしなければ、すべての花が開花するが、すべての花を結実させるだけの栄養を木が供給できないので、ほとんどの実が落ちてしまう。

では、人間の助けを得られない野生時代のぶどうはどうしていたのだろうか。
野生種か、野生にきわめて近い栽培種のぶどうが登場する文献を見てみよう。

エシュコルの谷に着くと、彼らは一房のぶどうの付いた枝を切り取り、棒に下げ、二人で担いだ。また、ざくろやいちじくも取った。

旧約聖書 民数記 13章23節(新共同訳)

この場面は紀元前12世紀ごろのものとされる。
この場面が史実であるかどうかはともかくとして、古代のぶどうが2人がかりで運ぶ必要があるほど巨大な房を作ったことは間違いないだろう。

実は、このぶどうの子孫とされる品種が現存しており、そこから野生時代のぶどうの姿を想像することができる。
その名は「ネヘレスコール」
いかにもヘブライ語な名前である。
私はネヘレスコールを作ったことはないし、写真も持っていないから、どんな姿をしているかは各自で検索してほしい。
ネヘレスコールは房は巨大であるが、現代のぶどうと比べて粒は小さくまばらである。そのため、粒をつけるのに十分なスペースが保たれている。
ネヘレスコールは現代のぶどうと比べ甘味は少ない。したがって、ぶどうをならせるために必要な栄養はその重さの割に少ない。

日本でもネヘレスコールを栽培している農家は存在しているが、商業的なものではなく、観賞用を主要な目的としているようである。

次回予告

次回は、シャインマスカットの登場によって一気にぶどうのメインストリームの一翼を担う存在になった「マスカット」について解説したい。

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