見出し画像

橋をつくった人の名前を僕たちはまだ知らない。 『肥後の石工』

橋をつくった人のことを意識したことがない。「黙っている」土木。それがまたかっこいい。しかしながら、美しい構造、高い技術力をもっと声高に叫んでもいい。聞きたいのだ。橋の声を。

「肥後の石工」今から170年以上前にアーチ式石橋を架けた岩永三五郎さんをモデルに書かれた小説。橋には敵の侵入を防ぐために、橋を落として城を守る「しかけ」があった。その秘密を外部にもらさないために、橋の造作にかかわった職人はみな『永送り』になったらしい、という怖いエピソードから物語が始まります。『永送り』とは、刺客によって斬りすてられること。怖い。怖い話なの?橋渡し的ないい話とちゃうの?どうなるの?あぁ。とぐいぐい引き込まれてあっという間に読み終えてしまいました。
よい石ころがある川上には必ずよい石場があるという。三五郎は川を見ると石ころを調べてみないではいられないことや、木に木目があるように、石にも石の筋目があり、その筋目に合わせなければ石は割れないことなど技術のミニ知識に心が弾みます。囚われの身から解き放されたのち、毎日せっせと橋の下図を書く姿からは、橋をつくることができる喜びがつたわってきます。ドラマチックな展開に欠かせない空想のキャラクター達。橋の上で繰り広げられるドラマより、橋をつくるドラマに注目してみたくなりました。

岩永三五郎の代表作・雄亀滝橋・聖橋・甲突川五石橋(玉江橋・新上橋(流失)・西田橋・高麗橋・武之橋(流失)残りの3つは現在、石橋記念公園に移設保存されている)http://ppp.seika-spc.co.jp/ishi2/

『肥後の石工』少年少女小説傑作選 今西祐行 筆者|実業之日本社|1973年 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?