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消せるボールペンと色鉛筆のデザイン。

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「日本の文房具にとってデザインは重要。」

文房具はデザインとの関係が密接な道具であると思います。それは目的が明確であること、説明書を読まずに使う事が前提であること、繰り返し使われるものであること、繰り返し選定・購入のプロセスが発生すること。様々な要素によって消費者にデザインが吟味される道具であると考えております。

とりわけ日本は文房具に限らず、一つのカテゴリに於ける競合製品が非常に多い特殊な市場を持っている国であると思います。消費者は多くの選択肢から自身に合う製品を購入することができます。これ自体は良い面もありますが、多くの課題も持ち合わせていると考えます。でも、これは別の機会に表現したいと思います。さておき、多くの選択肢を与えている提供者側の目線で見れば差別化の追求が求められる市場とも言えます。これはデザインの重要性がより要求されている市場と言うこともできそうです。

競合製品が多い市場では、提供者は自身のプロダクトを選んでもらうための努力が必要になります。当然、その道具とデザインが共有する目的にもその要素が加わります。そうでなければ市場で戦えないからです。これは道具としての性能の追求という形で表現される限りは純粋な工業デザインの延長になるのでしょうけど、その方面への努力とは別にマーケティング要素によって追求されることもあります。後者は道具を使う際の目的とは別に、売る際の目的がデザインされることになります。いずれもデザインに含まれるものですが、利便性は消費者のメリットである一方でマーケティングは提供者のメリットを目的にしているものです。

日本の文房具は工業デザインとしても、マーケティングとしてもデザインが先鋭化している市場と感じています。文房具の一部でしか無い筆記具だけを取り上げても相当な売り場面積を占めており、そこに多くの競合があることを理解できます。これは海外ではなかなか見かけない風景です。

他の国なら筆記具に与えられる目的は書けることだけであったりします。しかし、日本の筆記具はどう書かせるかについて非常に多岐にわたる目的があり、それぞれの分野で競合製品を持ちます。一部に過度に先鋭化した追求も見かけはしますが、その企業努力が価格に目に見えて転嫁されることは殆どなく、競合が多い市場らしく比較的安価な価格帯に高性能な製品が並ぶのも特徴です。

「消せるボールペンと色鉛筆のデザイン。」

例えば消せるボールペンのフリクション。消したければ鉛筆を使えばいいじゃない、と言うのが普通の発想。それをボールペンでありつつ消したいと言うレベルまで欲求が高まるのは日本の市場以外では考えられないです。当初はニッチだったはずの商品も、今では競合他社も参入してボールペン市場のマジョリティに。その後に同じフリクションシリーズで色鉛筆まで出て来たのは驚きでした。だって、昔からあるクーピーが普通に消しゴムで消えましたから。これはクーピー側が機能では同じであるにも関わらず、マーケティングを含めたデザインで市場にその機能を伝えきれていなかった例と思います。一部だけではなく、全てのセット商品に消しゴムを含めておいても良かった気がします。

そのクーピーには別の面白い発展がありました。古典的なクーピーでは幼児はすぐに折ってしまい、なかなか扱いづらい。私も幼少期にはクーピーを使っていましたが、たいていは 2 つか 3 つに分かれてしまったままケースに入れていた記憶があります。そこで軸を短く太くすること丈夫にし、かつ幼児が握りやすいよう三角の軸の仕様でさんかくクーピーペンシルと言う商品を出してきました。色を付ける芯の部分は全く同じながら、形状を変えることで異なる客層に合わせています。これは目的の中に誰に使ってもらうのかを明確にした良いデザインと思いました。あまり見かけないのは残念です。

さらにその幼児向けのさんかくクーピーの形状をそのまま、蛍光色や流行のくすみ色だけを取り出して若者〜大人向けにクーピーマーカー 3 として出してきました。物理的には何も変えないまま、色鉛筆では無く蛍光マーカーの市場に割り入って来たのです。幼児がにぎりやすいように太くした軸はそのまま大人には太い線が引ける機能を主張するデザインに置き換えられているのです。本数を減らして単価を下げている点はマーケティング要素でありながら、マーカーとして必要になる色数を反映した結果でもあり、機能とマーケティングが良くデザインされていると感じます。もちろん製造ラインにしても幼児向けと大人向けを共通にすることが出来る点も見逃せません。工業デザインは最終的なプロダクトだけをデザインするのではなく、このような製造過程の目的もデザインに含めることでビジネスの目的を達成せねばなりません。市場の反応を見る限り、こちらはマーケティングの目的を含めてヒットしたデザインのようですね。

ただ、相変わらず消せることがあまりアピールされていない点は残念に思います。

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