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白紙の手帳。

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「未来は空白で、過去は省みない。」

手帳、ある時期までは市販の手帳をつけておりましたし、各種の手帳を必要以上に試して回る手帳難民の一人でした。しかし、同時にどの手帳を使ってもなかなかしっくりこないでおりました。最初に疑問を持ったのは新しく始まった 1 年間の手帳、たいてい 1 ヶ月以上先の予定は空白。使い始めはほぼ白紙の手帳を持ち歩いていることになります。

それでもほぼ 1 年使ってきた年度末付近には当然ながら白紙のページはほぼなく、埋まった一冊になって来ます。しかし、書き込まれはしたものの、数ヶ月前どころか先週すら振り返ることはありませんでした。見るのはせいぜい昨日くらい。つまり、書かれても見もしない期間の手帳を持ち歩いていたのです。

当日の情報は多く、未来の情報は少ない。月や年間の計画だけならマンスリー手帳でも充分です。しかし、今日一日の予定を網羅させようとするとマンスリーやウィークリーの手帳では手狭で 1 日 1 ページのデイリーの手帳、それも A5 くらいのサイズが欲しくなります。前者では情報が少なく、必要な情報が足りないので頼れない。一方、後者では手帳自体が大きく重くなり、携帯しない時が生まれる。いずれも本末転倒で、なかなか両立しないものです。

それでも手帳自体は必要でした。特に前日、当日、明日と言う 3 日間の情報は非常に頼っておりました。しかし、それよりも前だったり、それよりも先となると、ほとんど参照することは無かったのです。やがて、その 3 日間のために 365 日分の手帳を持ち歩いている自身に疑問を持ち始めました。

「未来は日付を伴わない。」(...事が多い)

先ほど、未来の予定が白紙と述べました。しかし、予定が無いわけではありません。これは私の仕事やプライベートの環境に依る部分が大きいと思いますが、まだ日付が決まっていなかったので手帳には書き込みにくかったのです。ある程度の期間のうち、いずれかの日に行いたいけど、まだ日付は決まっていないような予定です。予定を書くべき手帳に書き込めない予定と言うのも中々の矛盾。これはそろそろ私が手帳で行いたいこと、つまり目的と市販の手帳に与えられているデザインが合わなくなってきているな、と感じました。

それまでは手帳には日付が入っているものだ、と言う狭い視点で考えておりました。しかし、手帳で管理したい情報に日付が入っていないのであれば、同様に手帳自体にも日付は要らないのではないか。と考えるようになりました。

「日付の無い手帳の模索。」

私の生活に合う手帳には日付が要らないと言う考えに沿って、10 年ほど前から日付の無い手帳の思考錯誤を始めました。それを手帳と呼ぶべきかどうか議論の余地があろうかと思いますが、少なくとも用途は手帳なので私はそれも広義の手帳と定義しました。

「相対的日付の導入。」

相対的日付と言うのは昨日、今日、明日と言うようなもの。今日が何年何月何日なのかによって、それが指す日付も変わります。これを手帳に導入しました。対して従来の手帳は絶対的な日付が最初から入っており、人間の方がその中から昨日、今日、明日に相当する相対的な日付を見出して使うものです。これを逆転させ、手帳の方が相対的日付で情報を管理し、人間がそこに絶対的な日付を見出して扱うものです。

この試行錯誤は普通の A5 サイズのノートで行いました。そのノート (ではなく手帳) は以下のような構成であったと記憶しております。

最初の見開き 2 ページ — 「過去」
次の見開き 2 ページ — 「今日」
次の見開きの左のページ — 「今週」
その右のページ — 「いつか」

計 6 ページだけの手帳です。その後の試行錯誤で「過去」のページは割と早い段階で必要ないと判断して無くなりましたので 4 ページだけが残りました。予定はここに直接書き込むのではなく短冊状の小さな付箋に書き込み、それらを一旦は全て「いつか」に貼りました。あとは毎日、「いつか」の情報から今週行うべきもの、行いたいものを「今週」に貼り直し、その中で今日やるべきものを「今日」に貼り直すのです。手帳の中で情報が移動していくと言う考え方でした。

これは結構大きな問題があって継続はされませんでした。問題はまず付箋の能力的な限界。何度も貼り直す使い方に粘着力が対応できず、ノートから付箋が抜け落ちてしまうようになりました。更に付箋同士が重なり合うことでかなりの厚さになりました。それはそうです、これまで複数ページに分散していたすべての情報が 4 ページの間に付箋の厚さ分だけ折り重なっているのですから。と言うことで物理的な理由で継続が困難でした。

しかし、我ながらこの概念自体は悪くないと感じました。まずは今日と言う日付に集中できること。そして、将来の全ての予定を俯瞰した上で、今日や今週の予定を組み立てできること。それらにより「いつかやろうと思っていたこと」について、予定の空いている週や日に実行できるようになりました。さらに予定の方が紙の上で移動していくと言う着眼点はそれぞれの予定を何度も見直すことになります。今日に置いたけど実行されなかった予定を次の今日 (つまり明日) に繰り越す罪悪感もまた、私自身に予定を実行させる強制力として機能しました。これらは時間管理と言う手帳の目的として非常に重要な要素と言えます。

「絶対的日付への回帰。」

情報を手帳の上で動かすと言う概念は良いものの、ノートと付箋の機能的な制約で期待通りには機能しない。仕方ありません、これらの道具はそのようにはデザインされてはいなかったのです。では異なる道具でこの概念を実現させよう、と考えるようになりました。紆余曲折は数年間に及びましたがこれ以上の失敗談を重ねることは致しません。現在行っている「現時点の最新版」のみを共有いたします。

移動する情報を扱うのに適した道具としてデジタルを活用しました。コロコロと変わる予定を記録するのに紙は最適な媒体ではありません。iPhone なり、あるいはクラウド上のデータに予定を置くのです。なんか急に今風の普通な時間管理になったような気がします。でも、ちょっと風変わりなはずです。私ですから。

日時の決まっている予定は Google Calendar に入れます。幸い、職場は G suite を導入しているので同僚との予定の調整はここで半ば自動的に行われる環境です。わざわざそれを紙で行う必要はありません。そのまま Google Calendar 上で管理するようになります。

日付の決まっていない予定は ToDo アプリで行いました。当初は TaskPapaer と言う非常に柔軟かつシンプルなサードパーティ App を iOS と mac OS の両方で愛用していたのですが、同 App の iOS 版のサポート終了に伴って Google ToDo に移行しております。ここには自身が行うべきタスクだけではなく、部下や他の部署、あるいは顧客のアクション待ちの案件も登録しておきます。それらは「その後、いかがですか?」と聞くべきタイミングを待っているものたちです。そして、ここでの ToDo アプリは普通の使い方ではありません。通常であればタスクを完了した際に完了ボタンを押すものですが、このシステムでは「今日」と名付けられた紙 (後述) に書き込まれる際に完了ボタンを押してしまうのです。

「白紙の手帳。」

最も重要なのが「今日」です。これは従来通り紙の上で行います。日ごとの情報量やカバンの大きさによって A6, A5, A4 とサイズは変わりますが、どれも安価で無味無臭なコピー用紙の白紙で始まる点は共通です。携帯性と情報量のバランスから A5 の日が多いです。毎朝ここに Google Calendar や ToDo から今日行うべきものと、今日行いたいものを転記します。

この転記という部分が手間のように思えるかもしれませんが、私はこの部分を一連のプロセスの中で最重要視しております。ここをデジタルで行うことはしません。ここは相対的日付で行った付箋システムに於ける情報を動かす心地よさと、時間管理への効果を考慮したものです。何よりこのプロセスでかけた時間を上回る効率でタスクが消化されるので問題ないのです。

具体的には Google Calendar からその日の予定を転記した後、残った隙間時間に自身のルーチンワークやその日の ToDo を入れていきます。ToDo はここに転記したときに完了ボタンを押してしまいます。それでも隙間が残る日は ToDo の中から、それほど優先でもないような案件を写して埋めてしまいます。このシステム、ここが良いのです。従来の ToDo 管理ですと、やるべきは実行できるかもしれませんが、やってもやらなくても良いものを実行させるチカラはさほど強くありませんでした。

この「今日」の紙にはその日の予定だけではなく、その日の活動の中で決まった未来の予定も一旦書き込みます。それはその日のどこか落ち着いた時間帯、大抵は寝る前に日付のあるものは Google Calendar へ、無いものは ToDo へ転記した後、「今日」の方にはレ点を打って完了させます。もちろん、環境が許せば紙を経由しないで直接デジタルに入力することもあります。

その日に行う予定だったけど実行されなかったタスクもここで紙からデジタルツールに一度戻されます。ここでも情報の移動が発生します。手間ではありますが、一日の初めに行ったデジタルから紙への移動と同じく重要視しております。ここである程度の手間な作業があることを知っていることで、その日にそのタスクを実行させる動機付けにもなり、完了率を高めてくれています。あるいは、もう実行不要と判断して転記もせず削除する機会にもなります。その日を振り返る要素としてとても重要な作業であり時間です。

このようにかつては付箋システムで行っていた情報の移動が、紙とデジタルの間で移動するように置き換わりました。このシステムは私の生産性をとても高めてくれております。明日以降は 2 つのデジタルツール、今日は紙。過去はあまり振り返らないけど一応スキャンして Google Photos へ入れておくと言う感じです。

一見、プロセスが複雑に見えるかもしれませんが、どこで活動するにも「今日」の紙 1 枚が手元にあれば良いのです。書かれてもいない遠い未来、あるいは見ることもない過去を含めた 365 日分を持ち歩いていた頃と比べると格段のダウンサイジングです。その上で必要な情報が全て手元にある安心感。書き込める情報量も 1 日 1 ページ分と同じだけありながらも量は 1 枚だけ。その日新たに起こした新しい予定やタスクも全てその「今日」にあり、いずれかのデジタルツールへ転記される。つまりはその日頼るべき情報の在り処が一元化されているのです。

自身の目的に合わせて手帳をデザインした結果、1 枚の白紙になったのです。

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