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広報の次のステップとして考える「戦略番頭」というポジション

ベイン・アンド・カンパニーのパートナーであるクリス・ズックとジェームズ・アレンの共著「創業メンタリティ」を読んで、広報パーソンの次のキャリアのヒントを得た。

「創業メンタリティ」は企業が適切な企業規模で早く・持続的に成長するために必要な「創業目線」と、その目線を持って企業の危機を乗り越えるための方法論と事例、「創業目線」の育て方について説かれた本だ。

「創業目線」には三つの要素がある。「革新志向」、「現場へのこだわり」、「オーナーマインド」だ。これらの要素を常に意識することで、「過重負荷」、「失速」、「急降下」と定義された三つの危機に対処できる。

「過重負荷」とは、スタートアップが、企業規模拡大の際に陥る状態。「拡張性のない創業者」、「現場の声の喪失」、「不明瞭な説明責任」、「売り上げ増加に追いつかない人材確保」が主な課題として起こる。

「失速」とは、保守的な大企業が官僚主義的な大企業へと没落する状態。「複雑性の宿命」、「マトリクスの罠」、「顧客体験の断片化」、「崇高な使命感の喪失」が主な課題だ。

「急降下」とは「失速」の状態に加えて、外部要因のせいで一気に経営困難になってしまう状態。「代替品の登場」、「利益源へのシフト」、「ビジネスモデルの変化」が追加で襲ってくる。

どの状態の危機にせよ、経営陣だけが「創業目線」を持っているだけではダメで、入社し立ての社員にまでこれを根付かせる必要がある。そのために筆よなリーダーの具体的なアクションプランが最後に述べられている。

ここまでの内容も豊富な事例とともに述べられており、十分面白いのだが、この本で個人的に惹かれたのが、監訳・解説を担当したベイン・アンド・カンパニーの火浦さんによる解説だ。火浦さんは日本企業を例に出しながら、日本独特の課題を「創業目線」を持って解決する方法を述べている。中でも目を引いたのが「戦略番頭」の存在だ。

 「戦略番頭」とは何か

「戦略番頭」とは創業者に代わって「創業目線」を組織に浸透させる役割を担った人だ。創業者ではなく、戦略番頭がその役割を負うべき理由について、こう述べている。

創業目線があるリーダーの育成のスタートポイントは、言うまでもなく創業者である。(中略)しかしながら、創業者はそもそも事業の拡大に興味があり、かつ、事業拡大に全身全霊を傾けて全力で疾走している。必ずしも人材の育成に興味あるいは余裕があるわけではない。

つまり、創業者が突っ走って、その後ろからカリスマに惹かれた仲間もついてくるが、肝心な「創業目線」を育成できないというわけだ。そこで出番となるのが「戦略番頭」だ。向いている人は下記の通り。少し長いが引用する。

「番頭」にあたる人は、まずは創業者と絶対の信頼で結ばれていないといけない。その能力に対する信頼と「自らの存在を脅かすものではない」という確信が、創業者の側に必要だ。

さらにその「番頭」には高い戦略的志向と創業目線が必要となる。それによって、創業者から左脳も右脳も信頼された、単なる「番頭」ではなく「戦略番頭」的な存在として、創業者の経営におけるパートナーとなる。

(中略)創業者は個の強い存在であることが多く、必ずしも人材に対する評価がフェアではない事もあろう。「戦略番頭」はより冷静な視点で社内の才能を見極め、戦略担当として自らが係る重要案件の中にこれからの次世代リーダーを入れ、そのなかで自らの創業目線をもって薫陶を与えていく。

創業者が事業を生み出す太陽のような存在なら、「戦略番頭」はその光を受けてメンバーという星を照らす月のような存在だ。「戦略番頭」について、本書では詳しく書かれていないため仮説にはなるが、「戦略番頭」は決して創業者のストッパーになってはいけないと考える。

例えば、何か突拍子もない事業を考えたとき、それに対して意義を唱える存在はCFOやCOOなど他にいるはず。それは、意見しないということではない。「戦略番頭」は創業者をトレースするくらい、その思考回路を読み取る必要があるからだ。仮にその突拍子もない事業をやったとしてどうなるか。未来まで一緒に想像するくらいの気概が必要だろう。

広報こそが「戦略番頭」に向いている

では、「戦略番頭」はどんなキャリアステップを経てたどり着くのか。その一例がタイトルにも書いたとおり広報からのキャリアアップだと考える。

なぜ、広報なのか。それは、広報が経営者の分身だからだ。山見博康さんの「広報・PRの基本」の中で、広報の仕事についてこのように書かれている。

お客様が知らない企業は存在し得ない。広報の能力=成長の能力なのです。

また、「戦略思考の広報マネジメント」でも、経営と広報が表裏一体であると触れられている。

経営戦略上、重要なステークホルダーに対して、自社の経営戦略や経営の実態、そこから導き出される事業戦略や商品やサービスなどの市場戦略を正しく理解してもら、賛同してもらうことが、広報活動に求められること

ここで触れられているステークホルダーとは、お客様や株主だけではない。一緒に働くメンバーも含まれる。創業者の声を一番近くで聞き、それを100%に近い形かつ、わかりやすく社内外に伝えるうちに、自ずと「戦略番頭」としての素地ができあがるはずだ。

今の広報に求められているのはメディアとのやりとりだけではない。メンバーが自発的に発信したくなるために何が出来るかを考え、一人ひとりと向き合う必要がある。メンバーこそが最も大切にすべきメディアだからだ。

発信する情報を操作するのではなく、むしろメンバーが自分で考えて、拙くてもいいから自分の言葉で発信したくなるために伴走する。

そうしていく内に、自ずとメンバーにも創業者の考えがインストールされていくはずだ。

また、メンバーと向き合い続ける中で、人事と協力しながらポテンシャルを開花させる役割も担えるだろう。そうすれば、次のリーダーの育成にもつながる。

社内外双方に働きかけ、誰もが会社の代表となるように努力するのが広報の役割だ。そう考えると、創業者の分身のような存在でありながら、第三者の立場としてコミュニケーションを図る広報こそが「戦略番頭」に適しているのではないか。

コロナの影響で、企業が何をすべきかがぐらいついてる今、改めて広報が「戦略番頭」的な視点を持ち、創業者と二人三脚で一歩一歩踏み出すことが求められている。

さいごに

僕自身もまだ広報としての歴は浅く、ここに書いてあることに抜け落ちがあるかもしれません。もし、何かコメントなど遠慮無くメッセなどいただけると幸いです。

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