6日目 ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

映画ではなく小説のほう。

書き込みのある日記仕立ての章があったり、写真が挿入される演出はまさに現代の小説という感じ。うまいこと小説でしか成立しえない形でこれらの演出が盛り込まれている。
個人的にはこういう「小説ならではの表現形態」はすごい好きで、特にこの作品の場合は演出ありきの演出ではなく、ストーリーに寄り添った演出であるところが素晴らしい。ラストの写真は本当に心が動かされたし、あの感動はあの形式でしか起こりえないものだったと思う。

ストーリーは911テロで父親を失った少年の視点で進んでいくんだけど、作者は子どものころの感覚や感情をすごく正確にとらえていると思う。「鍵の持ち主を探す」という目標設定の感じとか、そこに対するある種無謀な大人にはできないアプローチとか、ブラックとの関係性とかにリアルな少年性を感じる。「スタンドバイミー」とかに近い感覚。だからこそ、911を背景にしたこの作品はとても切なく感じられた。

この話をよんで感動や共感を覚えた一方で、日本人で日本育ちの自分には本質的には理解や評価ができない部分が多々あるのだろうなとも感じる部分がある。この話は本質的には親子や死の話ではあるので、そこまでの違和感は感じないけど。それでも、やはり身近でテロが起こった人や、そういった人が近くにいる人とでは感じ方は違うのだろうな。

これはこの小説特有というよりも、海外の、特にアメリカの小説を読んだ時に良く思う感想なのだけれども、人種の違いや自分のアイデンティティの拠り所や宗教に対する感じ方が、やはりおれとは根本的な部分で少し違うような感じがする。

なんというか、非常に感覚的ではあるのだが、共感・理解はできるんだけどそれをするために少し同一化を自分の中でする必要があるような感じ、ネィティブの人よりも一層表層的な部分で理解しているような感じがする。もしかしたら原語じゃないからとか、そういうところも関わってくるのかもしれないが。とにかく、おれがアメリカ人だったらもっと深い部分でわかるのだろうなという感じがするのだ。

とはいえ、演出・ストーリー共にかなり好きな小説、ラストがとにかく素晴らしい。映画版もいつか見てみたいと思っている。



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