榎木津

映像自作自演家 /人生に飽きない退屈を

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捨てるに捨てられないもの

ショートカットするのによく通るお寺がある。 その見慣れた景色の小さな変化を見逃さなかった。入り口にある門の影に小さなトランクが置いてあった。 こんなこころに不用心だな、と思ったものの、すぐ表で道路工事していたところだったので、その関係者の荷物なんだろうと素通りしていた。 工事は夏の間中続いたせいもあって、門の影に放置されたトランクは見慣れた景色の一部になった。夕方に工事が終わってもそこにあったから、たいした貴重品でもないんだろうと心配することもなかった。 やがて蝉の声

    • 縁があればまた会える

      伊勢神宮には“呼ばれる”という考え方がある。お伊勢さんに呼ばれると都合や天気、体調などあらゆることがトントン拍子に物事が進むという。いつか行きたい、なんて考えてるうちは行けない。“呼ばれる”と“行かねば”と感じるようになる。 そんな風に“縁があれば”と人は言う。 なのに会おうとするたび必ず何かが起る。もう本当に面白いくらい縁のない人もいる。 ◆◆◆ 初めて彼女にDMを送ったのは冬が始まった頃だった。 その夜は少し参っていたせいで、タイミング良く届いたSNSの通知に気

      • 沈黙はとくに居心地の悪いものではなかった

        来客用のベッドと言ってもリビングの奥にパーティーションを立てた程度。 もうそろそろ起きた頃かなとそっとリビングを覗くと、ソファに移動して眠っていた。 「だって暑いし」 ___ 「今日は何しよう」と二人でソファに座ってもう2時間になる。その間ずっと窓の外を眺めてた。ここに引っ越してきて初めての夏。部屋を借りるときの条件は大抵いつも同じ優先順位だった。これまで二の次にしていた眺望に恵まれた最上階の部屋に住んだのは初めてだ。 高台に沿って勝手な方向にいろんな建物が建ってるの

        • ひとり暮らしなのに料理するの?

          「ひとり暮らしなのに料理とかするの?」なんて失礼な質問をしたことがある。「するよー」と彼女は笑った。「いい気分転換にもなるし」 そのときはよく分からなかったけれど、ひとりで暮らすようになって自炊するようになってようやく彼女を理解できた。誰かのためにする料理は確かにモチベーションになるけれど、実は自分のために時間を掛けてする料理の方が、もっと贅沢なことなんだと。 そして、普段は使っていない脳の働きをしてるような気がする。 右脳と左脳を同時に使うような。 それが「いい気分転換

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        • Davinci
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