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医師業界最大のリスク

 先日も書いたが、最近ウェブ上に掲載される「東大VS医学部」論争を興味深く眺めている。

 概ね医学部医学科に進学し医師になることは、ほかの世界で生きていくよりいろいろ良い面がある。

 もちろん医療業界は今働き方改革に揺れるくらい過重労働が問題になってきたし、訴訟リスクも抱える。

 それはそれでつらいのだが、それは医学部外の世界を知っているからこそ、医師だけが特殊だとは思わない。

 ストレートで医学部に行ったり、医師以外の世界を知らない医師家庭出身者にとって、医学部外の世界はテレビドラマなどのなかにしかないから、医学部に入っていなければ商社でウハウハみたいな雑な考えになってしまう。リアリティがないのだ。

 私のようなサラリーマン家庭の人間が、医療界を漫画、アニメ、ドラマの世界でしか知らないのと鏡合わせなのかもしれない。

 というわけで、医師が過重労働だからとか訴えられるから、これから医師になる人なんていなくなる、と医療業界では言われているが、なにをかいわんや、と思う。

 たとえ医師の年収が大きく下がったとしても、志願者はそう変わらないとみている。

 それはアメリカや先進国に発展途上国の人たちが殺到する状況に酷似する。

 アメリカがどんなに格差拡大し、差別が残り、銃の乱射が日常茶飯事の問題だらけの国だとしても、殺人などもっとひどい状況に置かれているメキシコの人たちにとってはずっと希望がある国に見える。国境を乗り越えてでもアメリカに行こうとする動機になっている。

 そんなメキシコにも移民が殺到しているという。

 私自身医療業界に20年身を置くので、自分の業界の環境改善に当事者として動いている。全国医師連盟代表を引き受けたのもそのためだ。

 それはそれとして、ほかの業界のことを知ろうともせず、医療業界だけが悲惨とことさらに言うのも違うと思っている。同じ課題を抱える様々な方々との連携が重要だ。

 先日発行されたISO 5665は、全国医師連盟前代表の中島先生も加わり、医療業界を超えて様々な人たちと手を結んだから実現できたものだ。

 ほかの業界より給料がいいのだから、地位が高いのだから、という理由で、待遇改善、状況改善を封じるのは間違っている。

 医療業界の問題は他の業界と共通する部分があるのは事実だが、一部は比較的医師に特有だなと思うことがある。結構厄介だ。

 それは…。

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このマガジンでは、“めずらし医“である病理医の中でもレア中のレアなフリーランスの病理医からみた病理診断、医学界の話、研究者になることに挫折し学士編入学を経て医師になった者から見たキャリアの話、そして「科学ジャーナリスト賞」受賞者の視点から見た科学技術政策の話の3つの内容を中心に綴っていきます。創刊以来毎日更新を続けています。

フリーランスの病理医兼科学ジャーナリストである榎木英介が、病理、医療業界や博士号取得者のキャリアパス、科学技術と社会に関する「機微」な話題…

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