榎木英介
フリーランスの病理医兼科学ジャーナリストである榎木英介が、病理、医療業界や博士号取得者のキャリアパス、科学技術と社会に関する「機微」な話題を語ります。組織に属しない「インディペンデント(インディ)」ならではの忖度ない意見や他では公開できない情報を惜しみなくつづっていきます。 榎木の作った“機微だんご“、うまいかまずいか。まずは試しておくんなさい。うまかったらお仲間になっとくれ。 マガジン購読すると単品購入よりお安く記事を読むことができます。
ある文章が私の心に突き刺さった。 この文章だ。 ああ、似てる、と思った。私自身、死のうと思ったことがあるからだ。 この件は、何度か書いているし、ツイートもしている。 他にも何個かあるが、とりあえずこくらいにしておこう。 記事はぜひ読んでほしいなと思うが、重要なことを述べている。 本当にその通りなのだ。何も見えなくなっている状態。これで全てが終わっているという絶望的な気持ち。 首にザイルをかけてから25年。「未来人」の視点から見れば、あの時のピンチ
若い頃、自分の不運を話すのが好きだった。 こんな目に遭った、こんな酷いことされた、といわゆる「被害者ポジション」を語ると、周りの人たちが同情して気遣ってくれる…。 友達も少なく、他人とコミュニケーションをとることが苦手な私の、一つの「必殺技」だった。 そんな「不幸話」も毎回していると飽きられるし、辟易される。私の経験どころではないもっと悲惨な経験をしている人もいるわけで、歳を取るにつれてあまり話さなくなっていった。 まあ、研究室追放話も、ある種の「不幸話」な
キャズム理論は、聞いたことがある人が多いだろう。 スマートフォン(スマホ)はすでにキャズムを越えた商品だろう。私を含め、多くの人たちが所有している。 東京では、スマホ所有率は97%に達しているという。 もはやスマホはなくてはならないデバイスとなり、スマホなしでの生活が考えられない人も多いだろう。 私とて、この記事を書いたり情報検索をしたりするのにスマホをフル活用しており、なくなったらこんな頻度で文章を書くことは不可能だろう。 しかし…。 この普及率は
なかなか興味深い記事を見つけた。 ということで、もとのJAMA記事を見てみよう。 この論文では貧困との関係をおもに強調しているようだが、転居についても検討している。「子どもが10歳から15歳の間に2回以上引っ越した場合、完全に適応した後、成人期にうつ病を発症するリスクが1.61倍になることが観察されました。」とのことで、10歳以上ということではあるが、転居の影響が大きいことがわかる。 問題はその理由だ。 論文の妥当性や先行研究など、何か意見を言うにはまだ知識
何かを一人で学ぶことは非常に難しい。 まず何をやって良いか分からないし、やりはじめたとしても、「偏食」「つまみ食い」になってしまう。 この本を読めばいいと言われても、それが分からない。病理医だって、初心者がドンと本を渡されて、これ見ておいて、と言われるだけじゃ診断は身につかない。 学習の作法を身に付けるには指導者がいる。一部の例外を除いては。
今日も定期購読者オンリー記事にします。
今日はお金と仕事の話をば…。 フリーランス病理医として日々働いているわけだが、その収入源はいくつかに分かれる。 1つ目は、非常勤医師として病院に赴き、診断をすることで得ているお金。 2つ目は、検査センターで受託病理検査をして得ているお金。 3つ目は、医療系専門学校で講師として講義をすることで得ているお金。 4つ目は、記事を書いたり講演をしたりして得ているその他のお金。 今回はその具体的な金額について明らかにしようと思う。4は一般的な話なので省略。
昔、いわゆる「ヤンキー」が嫌いだった。 近所の公立中学校に入学したのは1984年。「ツッパリHigh School Rock'n Roll(1981)」な世界が広がっていた。 「不良」が校内を闊歩し、授業を抜け出す。校庭にはバイクの集団が侵入。「センコー」は胸倉をつかまれ、窓ガラスが割られる。 そんな世界から抜け出すには、勉強を頑張るしかなかった。ぼんくらだった私が一段階学力を向上させることができた意味で、結果的には良かったのだが。 そうして入った学区トップ
当たり前にそこにある。存在さえ意識していない。 その代表例は空気だ。一日のなかで地球に大気があることに感謝する人がどれくらいいるだろう。ほとんどいないのではないか。 同じように、なくてはならないのに、失って初めて分かるものがある。それは…。 健康だ。
今日はちょっと軽めの記事です。 その理由は…
タイムリープという言葉がある。 同じ時間を繰り返すというやつで、このテーマの物語は多い。 私が印象深いのは、手塚治虫の火の鳥"異形編" だ。 ネタバレになってしまうので、これ以上はやめておくが、繰り返される時間にとらわれ、脱出を試る人間の悪戦苦闘が描かれる。 時間は一方向。過去の失敗をもう一度やり直したい…。そうした人々の気持ちに刺さるのだと思う。 突然であるが、これは創作の世界の話であり、タイムリープは存在しない。 しかし、過去の一つの出来事にとら
もう15年以上前になる。 病理医になりたてのころは、指導医のお膳立てで様々な症例を経験していた。 私の習熟度の合わせて、適切に症例を提示してくれた。最初は消化器、次に婦人科というように。 その後もカリキュラムが用意され、それをこなせば成長できた。 しかし、それもいわゆる「一人病理医」になったときに終わった。
正直、今の「アカデミア」は危機にある。
成り上がりたい…。 最近は減ってきたが、そんな欲望を持つ人は多い。 かくいう私もその一人であり、世に名を残したい欲が勉強や研究の原動力になった。 安定した道ではなく、茨の道の研究者を志したのもその一つだ。 医学部か東大か的な話題で、それでも東大を選ぶ人は、こうした欲求が強い人が結構いるのではないか。 地方の勤務医より、東大を出て何者かになる。東大は少なくとも今の日本では成り上がるステップに使える。 しかし、そんな欲望がときに人を歪ませる。
山に登らなくて久しくなっているが、学生時代に山に登った仲間とは時々会って懐かしく当時を振り返ったりしている。 50代を迎えても現役で登山をやっている人もいるのだが、そんな仲間が力説するのが、登山用具の軽量化だ。 我々が盛んに山に登っていたころ、山道具は重かった。30キロを超える荷物で山に登ったこともある。そのころは若く、体力もあったので、そんなに気にはならなかったが、体力が落ちてきたら、山道具の軽量化は死活問題なのだろう。 登山用具の軽量化はトレンドのようだ。
何度か触れているが、カズオ・イシグロの「縦の旅行」は、非常に示唆的な言葉だ。 多様性と言ったとき、地域や職業の多様性を考えてしまうが、色々な職業に就いている、いっけん多様に見える人たちが、例えば同じ大学出身だったとか高校出身だったといったことは起こり得る。 例えば、イギリスで政権交代が起きたが、保守党の党首が5人続けてオックスフォード大学出身だったというのは象徴的だ。 フランスだとグランゼコールか。 日本では東大出身の首相はもう鳩山さん以来いないので、そうい