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眉を顰めやすい作品

四隣人の食卓(ク・ビョンモ著、小山内園子訳、書肆侃侃房)
韓国女性文学シリーズ7

ここで!さあどうぞ!眉を顰めて!さあ!
そんな声が聞こえてくるような作品でした。
少なくとも自分にとっては。

これってどこまでネタバレしていいものなんだろう。
簡潔にまるっとまとめると、子ども3人産むことを条件に居住可能となる「夢未来実験共同住宅」に集った4世帯の育児共同体が、グズグズに破滅していく物語。
(破滅してくれて良かった〜〜と思わざるを得ないストーリー。現実味を帯びている、というかそのままなぞっているようにしか思えない、天晴。)

ク・ビョンモ作家は「現実にいる」ようなキャラクターの描写がほんとうにお上手で、だからこそグッと引き込まれる。

労働、家庭、育児、協働、軋轢。
悪人不在の不協和音(これが本当にリアル!)

そしてまた痺れたのが、巻末の小山内氏による「訳者あとがき」の中のこの一文。
(自分は韓国文学の訳者あとがきをこよなく愛しています)

『日常生活の安寧を人質にとれられると、なぜ声を上げるより声を殺すほうを選んでしまうんだろう』

そうか。しっくりきた。今まで自分が「日常の安寧のために声を殺した体験」を、辛いけれどもゆっくりと思い出してみる。

・電車内で痴漢にあって、でも駅員さんに突き出すと講義に遅刻しちゃうから、思いっきり痴漢犯の靴を踏んづけて睨んだこと。

・居酒屋でアルバイトしていた時、客に「生理なの〜大丈夫〜?」と言われながら肩を揉まれたり、セクハラ発言をされたり身体を触られたりしたときに「でも社会で働いてお金をもらうってことは、こういうことも我慢するってことなんだろう」と飲み込んでしまったこと。

・異性同士しか結婚できないなんておかしいじゃん。異性同士のパートナー以外は賃貸入居時にハードルが上がるのおかしい。などとニュースを見ながらこぼした時、「なに、ENNIEって同性愛者なの?」「大丈夫、他の友達にもいるよ」「セックスの時に問題があるじゃん」などなどつらつら語られて、『非異性愛者を想定するやいなやそのような言葉を用いてアウティングの強制をしたり、性行為にすぐ結びつけて話し出すのはアウトだ』と真っ当に怒れなかったこと。

・LGBTQ+について知りたいので色々教えてほしい。と言われたので(・・・?)と思いながら話に付き合った時、「ENNIEさんは‘そう’なんですか?」と言われたので「それは聞いてはいけないことです。質問をチェンジしてください」と返した時に、「あ、やっぱりそうなんだ。いや聞いちゃいけないことって知ってたんですけどね、試してみました」と言われて、ゲンナリして怒れなかったこと。

・「ヴィーガンってバカだよね、おかしいよね」という言葉を横で聞いたときに、自分の想定できないものを、理解ができないという理由で貶め排除する姿勢はいかがなものか、と反駁できなかったこと。

・「白いですね」「痩せてますね」「〇〇が綺麗ですね、大きいですね」などと言われるたびに、本人から切り出されてもいない外見のことについて指摘して話題に上げるのってすごくおかしいことだと思うのだけれど、と毎回言えないこと。

・特定の団体やグループを指して明らかな差別発言をする人間がいるとき、注意したいのに、言葉にうまくまとめられなくて苦しい時。(そのたびに、自身の問題に対する理解が浅いせいなのでは、、、と自己嫌悪に至る)

・接客業中にやけに話しかけてくる客を(お店の面子を立てたら)あしらえなくて、自分が店長だったらこの客コンマ2秒で締め出すのに、、、と思う瞬間。




(たまに振り返りに戻ってきた時、思い出すようなことがあったら書き足していく。)

凄惨だなぁ。
日常の安寧のために、声を上げないといけなかったのに、こんなに噤んできしまった。

でも、書き出していて気付けたけれど、性差別問題や性犯罪に対する主張は堂々とできるようになってきたかな、と。それに気づけたのはとても嬉しい。まずはそんな風にできることを増やしていきたい。

どうして韓国文学(主語がでかい、いつか小さくできるだろうか)を好きなのか、いつも上手に言葉で表せないことが多いのだけれど、今書いていて思い出したのは「バトンは渡された」「次にこの席に座る貴方のために声を上げる」こんなことばたち。何かの本の帯にあったような気がするけれど、何の本だったかが思い出せない。

でも、その通りだと思う。
だからこんなにもいま、「喋ることができる」媒体を求めている。

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