えんむすび喫茶館 第10楽章

『鼓動』


「じゃあ」
実が素っ気なく言う

「あ、あの」
糸が呼び掛け、実が振り向く。

「何かな、糸さん」

「また、会えますか?」

「また縁があれば偶然に会えるだろう、
じゃあ、」実は言い放ち去って行った。

糸の心は心が締め付けられる切ない思い、
実への恋心を募らせた。

実さん、また会いたい•••
私はこの男性が好きなんだと更に確信した。

心臓の鼓動が激しくなりメロディとなる。
糸の初めて味わう激しく情熱的な鼓動

「ただいま」と言い、糸はドアをあける。

「糸、お帰りなさい」
糸の母が優しく出迎える。

「雅子は、部屋におりますか?」
糸は不安げに母に訪ねる。

「そうねぇ、元気なくて静かだったわね」
母が思い出しながら答える。

「ありがとう」
糸は階段を急いで駆け上がり、
雅子の部屋に向かう
  

「雅子!雅子!入るわよ!」
といつにも増してノックが力強い。


「お姉様、お帰りなさい」
ドアを開けて雅子は泣いていたが
笑顔を取り戻した。


雅子は目を腫らしていた。
糸はここまで自分に対して
労力を使い、応援してくれる
妹に対し更に愛しさと信頼が増した。


糸は雅子を抱きしめた。

「雅子、ごめんなさいね。
貴方のお気持ちを踏みにじってしまって」

「お姉様、私の方こそ余計な事を
してしまい申し訳なかったわ。」

糸と雅子はお互いに向き合い話す。

「雅子、実さんのアトリエに1分入れていただけて、家まで送っていただいたの。
私、雅子の協力がなかったら実さんに歩み寄れなかった。雅子の作ってくれた機会を無駄にしたくなかったの。だから」

雅子は嬉しさのあまり、
再び嬉し泣き、糸に抱きついた。

「ありがとう、雅子!」

「実さんとはまた会えそうなの?」

「会う時はまた偶然会えるでしょうと
しか言われていないのよ」

「でも、実さん会わないとか会いたくないって言ってないじゃない、だからまた会える時に会えるって私は解釈するけど」
雅子は前向きな意見で糸を諭す。

糸の不安だった表情は和らぐ
糸と雅子は顔を見合わせて微笑む。

兄の勇がノックをする。
「雅子、糸、晩ご飯だよ、
ビーフシチューで、デザートは
お母様特性のタルトタタンだから
下に降りよう。」

「はーい」

「糸、どうもありがとう。
さあ、下に降りましょう。」



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