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中世音楽以前に関する音楽書15(+α)選

先日、中世からバロックにかけてと、現代音楽の両方の作品が絶妙に混じったプログラムのコンサートを聴きにいきました。
「僕たちは古楽と現代音楽の対話を通して『数』と『トランス』という壮大な命題に想いを捧げる」

で、古楽も現代いずれの時代の音楽も大好物なのですが、ルネッサンス以前(このコンサートではヒルデガルド・フォン・ビンゲンとか中世のエスタンピとかペロタンとかファエンツァ写本とか演奏されたわけですが)やっぱりいいよなぁと思ったわけです。

この2、30年でおそらく古楽のファンは増えて、コンサートも増えて、聴きに行く人も増えていると思うのですが、それは主にバロック時代の音楽であり、それも中後期バロックで初期バロックになると馴染みのある人は少なくなるのでは。合唱をやっている人はルネッサンスの合唱曲とか歌ったり聞いたりするけど、器楽の方に興味がある人は、ルネッサンス以前はもうあまり聞かないかも、、、そして、中世音楽となると、ますます、、、って感じではないでしょうか?
まぁ、コンサート自体、中世、ルネサンス音楽になると少ないですけどね。

ってことで、私としてはもっとルネッサンス以前のコンサートも増えてほしいし、特に中世音楽はもっと聞かれるようになってほしいと思うのでした。(時代区分としては1450年以前の音楽を中世音楽としておきます)
で、今回は、そもそも中世音楽あたりってどんなものなんか、ということがわかる本を紹介しようということです。
ところが本がそれほどないんですよね、、、特に日本語では。。。

ということで、
日本語で大まかな話がわかる本を5冊、他にこまかなマニアックなところ(それもギリシャ・ローマ時代の音楽から、グレゴリア聖歌、トルバドールといったあたり)の本を洋書で10冊選びました。
やや専門的すぎるかもしれませんが、でも書かれた内容(それも音楽以外の面について文化面などの記述が)興味深く、面白い本を選んだつもりなので、もし、もし、、、英語でもかまわないっていう人が一人でも手に取ることがあったら紹介した甲斐があったという感じです。
もちろん、

素人な私が選んでいるので、なんでこの本がないんや!!

というのも必ずありますので、そういうお勧めがあれば是非教えてください!

<音楽史>

▶︎カッロッツォ、チマガッリ「西洋音楽の歴史 第1巻」

https://www.amazon.co.jp/dp/4903439062/

まずは、音楽史の本、というのは定番な紹介方法かと思いまして。音楽史の本ではグラウト、パリスカの「西洋音楽史」あたりが有名ですが、ここではイタリア人が書いた音楽史という変化球で。
もちろん選んだの理由はあるわけで、この本の特徴は、各章に「考察」というパートがあって、あるトピックを取り上げて詳細に論じられるのですが、第1巻では、古代ギリシャ悲劇、9世紀の西方聖歌、オルガヌムの誕生、アイソリズム・モテット、アルスノヴァのバッラータなど、なかなか興味深いのです。もちろん全体の記述も面白く(しいて難点をいうならやや記述の軽重が激しいかな?)、第1巻の2/3までが中世音楽までの歴史です。
全3巻全体がユニークでおすすめな音楽史の本です。 (第3巻の20世紀以降の音楽の記述もちょっとユニークです、イタリアという少し傍流なところから出てるからなのかしら?)

<中世音楽全般>

▶︎皆川達夫「中世・ルネサンスの音楽 (講談社学術文庫)」

https://www.amazon.co.jp/dp/4062919370/

中世音楽について文庫で手軽にといえば、この本がやはり真っ先にあがるでしょう。歴史も音楽家も音楽の特徴もすべてシンプルに記述されているので、ここから入るのが一番楽。まずはこの本を手にとって、興味を持ったら他の本を読んだり、出てくる音楽家の音楽を聴いてみたり、というのが、これまた定番かもしれません。

▶︎金澤正剛 「新版 古楽のすすめ 」

https://www.amazon.co.jp/dp/4276371058/

もう一冊、皆川氏の本よりもやや広めに古楽全体を見渡す本、あと内容的にも新しい内容が取り込まれているものとしては、この本があります。
こちらも、皆川氏の本と同様の使い方ができます。

▶︎金澤正剛「中世音楽の精神史: グレゴリオ聖歌からルネサンス音楽へ

https://www.amazon.co.jp/dp/4309413528/

同じく金澤氏の本で、より中世音楽にフォーカスが当たった本といえば、これ。これも文庫になったので手に取りやすい。
中世音楽の理論の祖というべきボエティウスの理論書の話から始まって、グレゴリオ聖歌、オルガヌムの発生、ノートルダム楽派、アルス・アンティカ、アルス・ノヴァ、トレチェントへの道筋が整然とわかりやすく書かれています。歴史、理論、音楽がうまくミックスして書かれているので、とても読みやすいです。

▶︎Mark Everist「The Cambridge Companion to Medieval Music」

https://www.amazon.co.jp/dp/0521608619/

洋書で中世音楽を解説した本で、まず紹介したいのは、なんといっても困った時のケンブリッジ・コンパニオンシリーズです。この本も、歴史に則ってボエティウスから順に解説されています。金澤氏の本よりも、音楽的な説明がやや多いですが、似た感じに受け取ってもらってもよいでしょう。

<記譜法>

▶︎ウィリー・アーペル「ポリフォニー音楽の記譜法」

https://www.amazon.co.jp/dp/4393930118/

▶︎Willi Apel「The Notation of Polyphonic Music 900-1600」

https://www.amazon.co.jp/dp/1849028044/

中世音楽からルネッサンスにかけての音楽を理解するには、楽譜も読めた方がいいですよね。古くはネウマ譜から、黒色定量記譜法、白色定量記譜法など様々あるわけですが、それら全般を解説した本で最も手に入りやすいのが、このアーペル氏の本です。幸い日本語訳があるのですが、残念なことに白色定量記譜法の部分中心にした抄訳なのです。だから中世音楽のごくごく一部の楽譜にしか適応できないというか。。。
なので、すみませんが中世音楽に興味を持つ人は原著も読みましょう。英語版自体英語はそれほど難しくない(どちらかというと専門用語をちゃんと知るのが大変かも)し、ペーパーバックにもなってるので。
演奏する人や楽譜に興味がある人は避けられないというか、絶対読んでみてほしい本です。そして、これを読んだら、今度は楽譜を読みたくなりますから!

<ギリシャ、ローマ時代の音楽>

▶︎Stefan Hagel「Ancient Greek Music: A New Technical History」

https://www.amazon.co.jp/dp/1316610896/

さて、上記の本で、中世音楽の理論の祖といえばボエティウスから取り上げられるわけですが、そのボエティウスもギリシャ時代に作られた理論を整備した人ということができます。
ということで、ギリシャ時代の音楽についての本も紹介しておきましょう。といっても、資料はごくわずかでどれほど正確に理解できるかというのはいまだに議論の絶えない分野ではありますが、プトレマイオスの残した理論から、当時の音律、楽器、記譜法、そしてその音楽を実践することについてチャレンジしている本としては、この本が一番ではないでしょうか。

▶︎J.G.Landels「Music in Ancient Greece and Rome」

https://www.amazon.co.jp/dp/0415248434/

もう一冊、ギリシャ時代の音楽、楽器についてまとめた本を紹介しておきます。こちらの本の方が、Hagal氏の本よりは非専門的かつ平易といえるかもしれませんが、音律、楽器、ピッチ、理論について簡潔に記述されています。(やや内容的には古いというか素朴な面もありますが)
ただ、こちらにはギリシャ時代以降、音楽がローマへとどのように継承されたかにも触れているところが特徴です。

<グレゴリオ聖歌>

▶︎Willi Apel「Gregorian Chant」

https://www.amazon.co.jp/dp/0253206014/

中世音楽でよく知られているものの一つにグレゴリオ聖歌があります。一時期なんだか謎の大ブームを引き起こしてましたね。
グレゴリオ聖歌の大きな問題として、そもそもリズムがあったのかなかったのか、というのがあり、いまだに議論は続いていますが、研究はずっと進んできてもいるようです。そんなグレゴリオ聖歌の歴史、時代による変遷とその音楽、読む方を包括的に説明した本といえば、やはりウィリー・アペル氏のこの本になるのではないでしょうか。ただ書かれて半世紀経っているので最新の知見に基づくものは別に読む必要があるでしょう。基本的な事項の整理という感じで。

<アルス・アンティカとノートルダム楽派>

▶︎Craig Wright「Music and Ceremony at Notre Dame of Paris, 500-1550」

https://www.amazon.co.jp/dp/0521088348/

グレゴリオ聖歌に続いて、教会音楽として大きな流れが、オルガヌムの発生から続く、アルス・アンティカ、ノートルダム楽派の音楽でしょう。第4の無名者(アノニマス4)の記述によって知られるレオニヌスやペロタンの音楽、さらにオルガヌム大全が作られた、そのノートルダム寺院における中世史全体を描いた驚異の本が、このクレイグ氏の本です。約1000年のパリ周辺の教会音楽について、教会儀式含めて知ることができるとっても面白い本です。教会音楽が教会に閉じたものでなく、宮廷との関係性と影響といったこともわかります。まさにそうやって音楽は発展していくのですよね。

<トレヴェール、トルバドールの音楽>

▶︎Elizabeth Aubrey「The Music of the Troubadours」

https://www.amazon.co.jp/dp/0253213894/

12、13世紀の中世世俗音楽として重要な位置を占めているものに、ジョングルール、ミンストレル、トレヴェール、トルバドールの音楽があります。いずれも宮廷、戦場、移動途上、貴族、兵士、吟遊詩人などによってフランスから東部スペインあたりで形成された音楽です。
で、この本は、南部フランスから東部スペインにかけてのトルバドールについて、歴史、詩文、ジャンル、音楽、実践についてまとめています。トレヴェールについても一部記述はあります。戦いに身をやつしたりしてる貴族にして兵士が、一方でロマンチックな歌を作ったりしてる、この面白さ。

▶︎Mary J. O'neil「Courtly Love Songs of Medieval France: Transmission and Style in the Trouvere Repertoire」

https://www.amazon.co.jp/dp/0198165471/

こちらは北部フランスの宮廷を中心に栄えたトレヴェールの音楽についての本です。音楽と詩文についてフォーカスが当たっています。当時の宮廷生活と恋愛歌を中心としてのトレヴェールを解説した本です。

<中世音楽の演奏実践>

▶︎ed. Ross W. Duffin「A Performmer's Guide to Medieval Music」

https://www.amazon.co.jp/dp/0253215331/

ここまでいろいろな時代の中世音楽について解説した本を紹介してきましたが、では、それらの音楽を演奏する立場では、どのように実践していくか、という本も1冊紹介しておきましょう。
中世音楽を実際に演奏するための人のためのガイドブックで、トピックスごとに専門家が文章を寄せた形になっています。
前半は、中世音楽のジャンル別の概要、国ごとの音楽の特徴、時代ごとの音楽の変遷の説明です。
そして、後半、当時の楽器について声、弦、管、鍵盤、打楽器についてそれぞれまとめられており、最後に実際にどのように楽器が使用されたか、実践についての話がきます。全部がそこそこうまくまとまっているので、演奏を考える人にとってはスタートの本にするにはよいかもしれません。

<音楽の伝承と記憶>

▶︎Charles M. Atkinson「The Critical Nexus: Tone-System, Mode, and Notation in Early Medieval Music」

https://www.amazon.co.jp/dp/0190273992/

▶︎Anna Maria Busse Berger「Medieval Music And The Art Of Memory」

https://www.amazon.co.jp/dp/0520240286/

最後にやや専門的ですが少し毛色の変わったというか、普段あまり考えていない分野の本を2冊まとめて紹介したいと思います。
私たちが今音楽を伝えるには映像、録音、楽譜があり、理論を伝えるための本、そして理論を記述するための専門用語やルールがありますが、では、そのようなリソースが限られた昔の人がどうやって、理論や作られた楽曲を伝え、新たに作品を作ったのかを考えたことはありますか?
この2冊は中世に音楽理論がどのように伝承、そしてその中で用語がどのように理解され変化していったかとか、曲をどのように覚えたか、さらに理論をどのように構成し記述したのか、そしてどのように音楽を作っていったのか、という普段私たちがあまり気にしていないことを当時のリソースを元に解明していきます。記憶術のようなものなんて考えたことなかったでしょ?
こうやって私たちは今、音楽が伝わり、音楽を享受してるんだなぁ、って思いますよ!

<おまけ>

▶︎Uri Smilansky「Rethinking Ars Subtilior」

http://www.urismilansky.com/study-and-engagements.html

さらにおまけとして論文を一つ。
というのも、上で中世音楽の様々な分野の本を紹介しつつ、末期のアルス・スブティリオールに関する本がなかったんですよね。そこで、博士論文ですが、アルス・スブティリオールの音楽についてまとめたものを挙げておきます。作者、スタイル、実践など、これもなかなかこういう内容の本がないので貴重なリソースです。

さて、いろんな本を勢いのまま紹介してきましたが、何か気になる本はありましたでしょうか?
英語の本が多くてすみません。

とりあえず、最初の方にあげた日本語による概説書だけでも手にとって読んでいただければうれしいです。面白いと思いますよ!

(おわり)
本文はここで終わりです。
一応投げ銭形式にしてありますので、もしよければ投げ銭してくださると、大変うれしいです。
これからもよろしくです。

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