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制御焦点理論(応用編)

さて、2週にわたり、かなりアカデミックなことを話してきました。今回は、この制御焦点理論がどのようにスポーツ、ひいてはサッカーに応用できるのかについて戦術とコーチングの観点から話していければと思います。最初の記事で言いましたが、制御焦点理論は、あまりスポーツ心理学で活用されていませんが、その中で数少ない論文を紹介しながら説明できればと思っています。


コーチング


まずコーチングに関してですが、前回少し触れましたが、制御適合が起こるような声かけをすることが重要だと考えられます。「考えられます」といっただけでは、信憑性に欠けるので、一つの研究を紹介しましょう。

Plesnner et al. (2009) の研究では、制御適合が、サッカーのペナルティーキックの成功率に影響があるかを調べました。結論を先に言うと、制御適合が起こることによって、ペナルティーキックの成功率はそうでない場合に比べて、高くなるということが分かりました。

さて、どう検証したでしょう。まず、一人のサッカー選手には5回ペナルティーキックをしてもらいます。一方、キーパーは、その5球のうち、あらかじめ、右に2回、左に2回、正面に1回飛ぶように指示することで、キーパーの意思決定をコントロールしておきました。この研究者は頭がいいですね。

そして、キッカーがボールを蹴る前に二つのメッセージのどちらか一つを聞かせます。
熱望方略
「最低でも3回ゴールすることがあなたの達成目標です」
警戒方略
「あなたの義務は2回以上外さないことです」

お気づきかとは思いますが、どちらも同じことを言っています。つまり、3回ゴールすることが選手の行うことであるということを言っているのですが、その伝え方を変える(ポジティブなことを最大化しようとするか、ネガティブなことを最小化しようとするか)ことで、熱望方略なのか警戒方略なのかに分かれるということです。

結果、どうなったかというと、促進焦点を持つ選手は、熱望方略的メッセージを受け取った時、防止焦点を持つ選手は、警戒方略的メッセージを受け取った時にペナルティーキックの成功率が上昇した、ということでした。

こういった現象は、
ゴルフパッドの課題で、制御適合した時は、していない時より20%の成功率が上昇(Kutzner et al., 2013)
ボールスロー課題で、制御適合した時は、そうでない時よりボールをバケットに入れる確率が上昇(Chen et al., 2016)
などでも言われています。

この研究から言えることは、
1、指導者の方は自分の制御焦点をとらえる
2、選手個人に合ったコミュニケーションの取り方を考える
ということでしょう。

1、自分の制御焦点をとらえる
これは、無意識に自分の支配的な制御焦点に沿ってコーチングをしている可能性があるからです。自分のコーチングを振り返ることで、自分の支配的な制御焦点はどちらかなのかを把握し、できるだけ選手と個別に話すときは、自分に支配的な制御焦点に従うのではなく、選手の制御焦点に合った観点でコミュニケーションを取るといいかもしれません。

2.選手個人に合ったコミュニケーションの取り方を考える
一つ目に少し触れましたが、勝った時や負けたときに沸き起こる感情、負けたくないのか、勝ちたいのか、リスキーな行動を取るか、保守的な行動をとるのか、等を確認しながら、選手個人の制御焦点を確認に、その制御焦点に合った情報提供の仕方が選手のモチベーションを上げ、結果的に選手のパフォーマンス向上につながる、と考えることは可能かと思います。

1でも触れたことですが、促進焦点を持つ指導者の方にとっては、先の研究における「2回以上外さないことがあなたの義務です」というメッセージは少しネガティブに聞こえるかもしれません。ただ、防止焦点優位な選手にとってはそういった情報提供によりモチベーションが上がる可能性があるので、自分の考えに沿わなくても、選手の世界観を尊重してあげながらコミュニケーションを取ることも重要である、ということが言えそうです。

そういった意味で指導者の方の「これだからこの選手はダメなんだ」は、単なる世界観の不一致によって起こっている可能性もありますね。

戦術


まずは戦術について、お話できればと思います。
制御焦点は、戦術にも適応されています。

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